変わる変わる(がわる)

@usamigoto

第1話

第1章 半世界


1


「この世界の半分をおまえにやろう」


昔どこかの魔王が言った言葉だ。

世界の半分…

赤道を中心に半分?

タテに半分?



「…ン!ブン!聞いてたか!?」

「…はい?」

「おまえ、たまにボーっとする時あるよな。そんなに考え込むような事でもあんのか?」


あまりにしょーもない事を考えていただけに、適当に返事をしてその場をやりすごした。


彼は幼稚園から一緒の、いわゆる腐れ縁のトム。名前の由来は…

それはまたにしよう。


オレはブン。

特に大きな苦労もなく、ただ何となく今日までを過ごしてきた。

ただ思う時はある。

生まれてきたからには、何か大きな事でもしたいなと。

大きな事と言っても、別に犯罪的な事ではないが。


適当に返事をしてると、トムがまた言ってくる。

「おい、ブン!聞いてるのか?」

「…ああ、聞いてる、聞いてる」

「聞いてないヤツの返事じゃねーか。」


そう言いながらもトムは気にせず話しを続けてくる。

「…で最近おもしろい法律が決まったみたいだぜ。

『一つの町の半分をあなたにおまかせします』ってキャッチコピーで、どこかの町の行政に口出し出来る権利が無作為に選ばれるんだって。」

「…ふーん。陪審員制度みたいな?」

「あー!そうそう!そんな感じに選ばれるみたい。

オレが選ばれたら、いろんな意味で活性化の為に助平な格安店助成制度だな…。


…何だその目は…。」


トムに冷たい視線を送りつつ、なかなかおもしろそうだなと感じていた。

一つの町の半分…。


なんだか魔王からのお誘いみたいだ…。





2


ーただ何となくの日々が1年また過ぎていった。

そんなある日、1人の友人から連絡が入った。


ー久しぶりにご飯でもどう。


そんな連絡だった。


トモは中学からの繋がりで、よくトムともつるんで遊んでいた仲だ。


ーしばらく海外に行く事になった。


そんな話しがトモからあって、ここ数年は年賀程度の連絡だった。


こっちに帰ってきたのか?

にしても帰る前にそんな話しがあっても良さげだが…

そんな疑問も気にも止めない様子で


ーじゃあ、12時にそこで。



約束した日になり、12時前にその場所に着いた。

少しするとトモも着き

「やあ、しばらくだね」

と言い、店に2人で入っていった。


4人掛けのテーブル席に対面で座ると、それぞれ注文してから話しになった。


「いや実はさ、先週からこっちに戻る事になってさ。引っ越しやら何やらでバタバタしてね。ブンとトムに連絡しはぐって。

トムにも連絡したんだけど、ここ最近忙しくなったみたいで、近いうちにはまだ会えないみたい。

…それでさー」


話し始めるとセキをきったようにペラペラと話すトモを見て、ふと違和感を感じつつ、相槌をうちながら話しを聞いていった。


海外には仕事の関係で行っていた事。

行ってからは一度も帰る事なく仕事詰めだった事。

仕事がひと段落し、たまには帰るかと思っていたところに急転直下で転勤が言い渡された事。

などなどこれまでの立派な歩みを聞かされた。


こちらとしては変わらぬ日々を過ごしていただけで、特に話す事はトムと休みが合うと遊んでいた事くらいだった。


トモってこんなに話すヤツだったっけ?

そんな疑問を見透かすように


「しばらく海外にいたら世界が広がってさ。なんか細かい事が気にならなくなっちゃってー」



世界が広がるか。

やっぱり違うもんなのかな。

にしてもかなり冷静沈着なイメージのトモがここまで感じが変わるとはな。


ご飯も食べ終わり、話し尽くしたかのように少し間が空いた後にトムは質問をしてきた。


「なんかさ、新しい法律出来たらしいね。なんか国の半分をお任せします的な。ブンはどう思う?」


「えっ…」

唐突な質問にすこし戸惑ったが、前にトムが話していた事を思い出しつつ

「オレは良いと思うけど…何となくおもしろそうだし。」


そう答えると、トモは少し伏し目がちになり、それまでより低いトーンで

「そう…。オレはあんまり…。」


その時、ふと昔のトモの姿と重なった。何かを考えているような、冷静沈着なトモの姿が。


するとハッとしたようにトモの表情が変わり

「あっ、じゃあそろそろ行こっか。オレこの後予定あるから。また連絡するね。」


明るいトーンに戻ったトモがそう言うと、2人で割り勘にし、その日はお開きとなった。


ートモは変わったのか?

そんな疑問を想いながら帰路に着いた。





3


トモと会って2週間程過ぎたころ

ーピピッピピッピピッ…

非通知で携帯に着信が入った。


すこしためらったが、何か出たほうが良いような衝動にかられ電話に出た


見知らぬ男の少し年老いた感じの声で

「突然のお電話で失礼致します。

わたくし、ハーフワールドカンパニーのオダと申します。

直接お伝えしたい事がありまして、お電話させて頂きました。

待ち合わせ場所等を記した書類をお送りさせて頂きますので、もし宜しければそちらにお越しくださればと思います。

もし、怪しいと感じましたら警察等に言って頂いても大丈夫です。

警察の方も分かっている組織ですので。

それでは、手短になりますがこれにて。

ご質問等はまたお会いした時に。

それでは失礼致します。」


一気に話し終わると、取り付く間も無く電話は切れてしまった。


…怪しい事は怪しいんだが、とりあえず書類を待ってみるか。


モヤモヤ感を残したまま、ひとまず書類を待つ事にしてみた。



ー電話の次の日、さっそく一通の封筒が届いた。

中身を開けると、一枚の便箋と、一枚のチケットらしき物が入っていた。


便箋の内容は簡単な挨拶と、電話で言っていた通りに待ち合わせの場所が書いてあった。


そして、文末には直接会ってではないと詳しい話しは出来ない旨が書かれてあった。



ー怪しい。

だが、気になる。

警察に言っても大丈夫と言っていたし、警察に一報してみるか。



少し怖さもあり、警察に連絡してみることにした。

近くの警察署に電話し、会社名を伝えると、答えは簡単なものであった。


ーその会社は信頼出来る会社です。

通知が来ましたら、通知の通りに従って下さい。

これ以上は警察でもおこたえ出来ません。

もしご不安でしたら、警察が待ち合わせ場所の近くまで付き添います。



警察が信頼出来ると言っているが、詳しくはこたえられないっていう意味が分からない。


しかしでも、待ち合わせ場所の近くまで付き添うってまで言ってるんだから大丈夫なのか。



思索をしてみたが、結論とりあえず行ってみようと思った。

何かそこにこれまでの人生を変えるような事が待っている。

…そんな気が少ししたから。



4


待ち合わせ場所はいたって普通の民家だった。

後から聞いた事だが、目立たない場所とかより、普通の民家の方が逆に目立たなくて良いそうだ。


築10年程だろうか、周辺の民家と似たような造りになっていて、インターホンはモニター付きのものになっていた。


ーピンポーン

至ってありきたりな音が鳴ると、電話の男がインターホンを出た。


ーどうぞ


短い応答の声に導かれるように、希望と不安が交じり合うトビラを開けた。



中に入ると短い廊下をスタスタと初老の男が歩いてきた。

ーどうぞこちらへ


案内されるまま短い廊下の奥に入っていくと、こじんまりとしたリビングに4人がけのテーブルとイスがおかれていた。

ーどうぞお座りください


案内されたイスに座ると、男は対面に座った。

ーお電話でお話しさせて頂きました、 オダと申します。


手短かに自己紹介をすると、スッと名刺を渡してきた。


名刺には、電話で名乗った通りに「ハーフワールドカンパニー」と名前と連絡先


そして、名刺のウラには『一つの町の半分をあなたにおまかせします』と記されていた。

ーこれってトムが言ってた


そう思っているうちに男の話しが始まった


「早速ではございますが、今回お呼びだてしましたのは、あなた様にある町の改革を行なって頂きたく…」


「…ちょ、ちょっと待って下さい。ボクがですか?ちょっといろいろと一気にで、理解が追いつかないんですけど…。」


男はフフッと軽く笑みを浮かべると

「皆様、はじめはそのように驚かれたり、受け入れられない反応をされますが、ご説明を聞いて下されば、ご安心なさるかと思います。

もちろん、ご説明をお聞きになった上で、今回の件を受けられるか受けられないかを決めて頂いても大丈夫ですよ」


不安はあったものの、ある程度の覚悟をして来た事もあり、まずは説明だけでも聞いてみようと思った。

「…分かりました。ひとまずお話しをお聞かせ下さい。」


「ありがとうございます。それでは早速ご説明させて頂きます。」


ー内容はいたってシンプルだった。


一つ目には、以前トムの言っていた通りに、年齢や経歴等を含めて無作為に選ばれたこと


二つ目には、ある町にした方が良いと思う事を電話かメールでオダに伝え、具体化する為にオダと直接打ち合わせを行い、オダが仲介となり、ある町の行政に伝えていく


三つ目には、ある町と口出し人の双方の安全確保の為にも行政との交渉は仲介人が行うということ

メールや電話がメインなのも、今までの生活リズムを崩さず、なおかつ周りにも口出し人ということがバレずに安全面を確保するためという事


四つ目には、3ヶ月から半年に1日だけある町に行き、様子や実際の声を聞くこと

行く時には双方の安全の意味から、アイマスクとヘッドホンで町の近くまで移動する


五つ目に、条件として、『町を良くしたい』との考えを元に案を出すとのことだった



20〜30分程で内容を伝えると、男は少し微笑んだような表情で

「いかがでしょうか?

なにか表情を見ますと、答えは決まっているようにうかがえますが」


ー内容を聞いた上でも不安はあった

とくにアイマスクとヘッドホンに関しては少し怖さもあった

しかしそれ以上に、期待感がうわまわり思わず表情に出ていたのだろう


少し間をおくと

「…分かりました。うまくできるか不安もありますが、やらせて頂きたいと思います。」


ーと言ったものの、やはり大丈夫だろうか…

そんな風に思っているのを見透かすように


「ありがとうございます。やっていくのは厳しそうだなと感じましたら、いつでも辞退して頂いて結構ですので、いつでもお申し付け下さい。

では、そのある町の概要をお伝えしてもよろしいですか?」


ーあまり考える時間を与えないように矢継ぎ早に話しを進めてくるようにも感じたが

いつでも辞めていいとの言葉に少し安心したところもあり、ゆっくりと男を見つめながらうなずいた


ーある町の概要は簡潔だった


中心部が栄えており、ドーナツ状のような形で中心部からだんだんと離れるごとに農村が広がり、人口も農村部が減少してきている


中心部には電車やバスなどが走っているが、農村部には朝と夕方のみのため、車が無いと生活出来ない


アトラクションなどの施設は農村部に点在しているが、あまり客が入っていない


町の周りは山々が囲んでいて、山の幸や川の幸は豊富


中心部の商店街も大型商業施設により、シャッターを降ろす店が多くなってきている


子育てや介護などの福祉事業は充実しており、現状として住んでいる人々の不満は少なく、全体としての人口は増減が大きくない


しかし今後の町の衰退による人口減少が危惧されている



ーといった概要だった


「何かお聞きになってのご質問はありますでしょうか?

…といっても急な事でなかなか質問も出ないかと思いますが

ひとまず1週間程、考えてみて下さい。



それでは、共々により良い町を目指していきましょう」


ー気持ちを先回りするように言われ

何だよと思いつつも

その言葉に従うように

少し間を空けてうなずいた


良い町目指してか…

何か面白くなってきそうだ

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