主張①
大規模戦闘が終わってから約1ヶ月後、外の世界では別段大きな問題も無かった。
Nodeの中の人間は壁の外の事なんて気にもせず、静まり返ったままだった。
「まただよ、まーた出たよ誹謗中傷のゴミ溜め暮らしのゴミ共が」
勝手に人の部屋に居座ってネットサーフィンをしていたフランチェスカは、デバイスを放り投げてベッドに横たわる。
柔らかい地面に無傷で受け止められたデバイスにはエキウムが映っていて、コメント欄が大きく表示されていた。
その中には一部のユーザーによる酷い罵詈雑言や、誹謗中傷の言葉が並べられていた。
「何だよこれ、酷い歌声ってこれのどこが……」
「まぁ、一部は絶対なるなる。嫉妬とか感性の違いとかあるしねー」
「顔が見えないからって何でも言っていいと……」
「問題はそこじゃないっしょ? お前らは人を非難出来る程立派な人生歩いて来たのかよってことじゃない? まぁ、意見だとしても傷付けて良いなんて言えないし、発言の自由を盾にした憂さ晴らしだから気にしない気にしない」
「それでも……」
「でもじゃない、そんなのこの国の国民性が無くなりつつあった時代には氾濫してたんだから。もう今更なんですかーって感じ」
聞き飽きたと言わんばかりに相手にもしないフランチェスカは両手を広げ、わざとらしく寝息を立てて黙り込む。
帰ってから日課となっている場所に足を運ぶと、その姿はすぐ目の前にあった。
「レイア! 元気にしてた?」
レイアと名付けたあの乳児は僕を見ると笑顔で手を動かし、人差し指を手の平に置いてやるとぎゅっと握りしめる。
名前に違わない天使の様な笑顔に迎えられると、「あったりまえでしょ! 私がわざわざ面倒見てやってるんだから!」とローザが隣の部屋で叫ぶ。
哺乳瓶に入ったミルクを振りながら出て来て、目の下にクマを作りながら、不機嫌丸出しの顔でレイアを抱いた俺に哺乳瓶を突き出す。
手を伸ばしたレイアの口に含ませながら支えていると、ローザは微笑みながらレイアの頬を人差し指の先でつつく。
「それでこの子どうするの? いつまでもここに居られたら邪魔なんだけど」
「うん。でもまだこの子はどこに行くかなんて決めれないし、責任者としてはこの子をここに居させてほしい」
デスクの上の実験器具と向かい合いながら、だから邪魔なんだってと繰り返し、動かなくなったモルモットを脇の袋に2匹放り込む。
人類の発展の犠牲になっていく動物の生きる権利を主張したが、ローザに呆気なく鬱陶しいと切られてしまった。
もしも人間より強いものが現れ、人間がモルモットの立場になったらと問うと、その時はその時で全力で抵抗するし、それでも勝てないなら仕方ない。
「それに私たちは負けない、何故なら夢があるから。そして今もまさにその人間よりも強い生命体と衝突してるの。それでも私たちは負けてない、こうやって醜く生きてるの。分かったならその子と陽の光でも浴びて来て」
レイアが飲み終えた哺乳瓶を荒々しく俺の手から奪い取り、邪魔だから消えろと言わんばかりに背中をドアの外に向かって押される。
「待って待って、まだ……」
「うるさい、文句があるなら散歩ついでに捨てて来て。そもそも1人じゃ何も出来ないのに無責任に育てるとか甘ったれるな、あんた1人じゃ所詮その程度だからよく覚えとけばーか」
いつになく不機嫌なローザからの悪口を全て背中で受け止め、腕の中のレイアにごめんねと一言謝る。
「何があっても守るから、ローザも本当は良い人だから。でも言葉だけは真似しないでね」
部屋の前で優しい口調にしてレイアにそう言ったが、どうやらローザにも聞こえていたらしく、背後の扉に何かものがぶつけられる。
逃げるようにして外に続く扉を目指していると、エキウムと廊下の途中で鉢合わせる。
「丁度良かった、私もその子を見に来たから外に行こ」
有無を言わさずに俺の手を引くエキウムに連れられ、まだ明るい荒廃した大地に飛び出す。
NAMELESS 聖 聖冬 @hijirimisato
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