カプリスの巣⑥
赤いBMが目の前で停止したのを確認してダリアに視線を戻すが、既にその姿は隣には無く、隠れる場所の無い荒野を見回しても人影すら見付ける事が出来なかった。
もう一度赤いBMを見上げると、遠隔操作が主流となった今の時代では珍しい、パイロットが直接乗り込む型だった。
その旧式のBMの胸から出てきた女性が駆け寄って来たエキウムとハグをして、まるで目的はこちらにあった風に俺を見る。
その推測を裏付ける様にエキウムを引き剥がした女性が、こちらに向かってゆっくりと足を引き摺りながら歩いてくる。
足を引き摺るのを見ているのもバツが悪く、こちらから女性に向かって歩くと、突然姿勢を低くして目で追えない速さで拳が
「かっ……ふぅっ……」
「おいおい、無闇に警戒を解くなよ。見た目に騙されてちゃ、直ぐに首が飛ぶところだ」
ベタっと座り込んだ女性と同じ高さまで上半身が落ち、痛みで力を入れる所じゃない足が動かない。
「なに……すっ……」
「だから、お前見てると反吐が出るんだよ。なんでそんなに自信ないんだ気持ち悪い。俺はダメだ俺は何も出来ない俺はおれはって、どんだけ自分の事好きなんだよ。戦闘中にずっと自慰聞かされるこっちの気にもなれっての」
座り込んだ女性にもう一度頭を叩かれて地面と仲良くしていると、gloryが下敷きになっていた瓦礫の山が空高く舞い上がり、以前見た大型の百足が姿を現す。
天にそびえ立つ災害を、Nodeの人は見た事があるのだろうか。壁一枚を隔てた向こうに、これ程まで大きな絶望が体現している。
「私をBMまで運べ! 何ぼさっとしてるんだ、足が動かないから早くやれ」
「俺がやる、やらせてほしい」
「夢もないのにか、夢を持たないやつはクズだ。クズに何が出来る、早くBMまで……待て! 夢もないのにどうする気だ。クソ、エキウム!」
右手を握りしめて百足に向かって突進するが、隆起した地面の下から姿を現した足に吹き飛ばされ、赤いBMに荒く掴まれて離脱させられる。
「死にたいのか! お前みたいなやつは後でガタガタ震えてろ、出来ることが見つかった時に出て来い。ここは私らが出張る場面だ」
轟音を轟かせて8方向から飛来したBMが形態を変えて地上に降り立ち、女性の乗るBMと合わせて全部で9機集まった。
それぞれが量産型とはかけ離れた形状をしていて、夢が形を成した時と同じ物質で出来た武器を携えている。
決して有効打とは言えない一撃だが、自分の8倍はある巨体を着実に削っていく。
「これがNode:2の実力だ、愛知の為に尽くしてきたんだ。いつかまた壁の中に入れる日を夢見てな!」
光を放った紅い機体が百足の体の中に入り込み、数秒後にコアらしき水晶体を貫いた槍を持って再び姿を現す。
それと同時に崩れ落ちながら泡になっていく巨体は、音も立てずに地面に伏せる前に跡形も無く消え去る。
それを見届けてから戦闘機に形状を変えて飛び去っていき、本当に何も無くなった荒野にエキウムと2人取り残される。
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