カプリスの巣⑤

戦闘が終わったばかりで瓦礫の山に埋め尽くされた街を歩き続け、自分が育った街の入口で足を止める。

Node:08と書かれた大きな扉の前で、少し前まで広がっていた光景と今の光景を比べる。


比べるまでもないが、外は相当に酷い。

夜に明りの点いているビルが並んでいたNode:08は、夜になっても昼の様に明るい通りもあって、沢山の人が行き交っていた。

この外とNode内を繋ぐ扉の前には警備ドローンが常に立っていて、外からの侵入者を徹底的に排除していた。


通行許可書が無ければ外には出れないし、NodeとNodeの行き来も不可能になっている。

制府による徹底的な衛生管理と人口調節が日々繰り返されていて、病気は早期発見早期治療ではなく、未然防止が当たり前となった。


ただし、この壁の中だけはそうなった。


「ノート」


「は、はい」


背後から聞こえたエキウムの声に振り向いてみるが、見渡す限りの場所にはその姿が見えなかった。


「わぁ〜!」


「うわぁ!」


突如として死角の足元から飛び出して来たエキウムに驚いて、思わず後ずさってNode:08の壁に後頭部をぶつける。


「いたた……どうしたのエキウム」


「シンが呼んでた、だから私も行くの」


「うん、ありがとう。すぐに行くよ、すぐに」


「いっこお、いっこお、いっそいっでいっこお。えっんっどろーるっがくっるまっえにー」


おかしな歌を歌いながら前を歩くエキウムの後に続き、さっきまで持っていた夢を思い返しながら、自分の手のひらを見つめて何度も握って開いてを繰り返す。

自分の意思で動く手は脳が送る信号の通り動いて、ちゃんと自分のものだと実感が湧いてくる。


「あの夢は、表現者のか。1人で過ごしてた幼少の時、空虚を埋めてくれるのは絵だけだったんだ」


「沢山の絵が映ってた、沢山の子も笑ってたからほしい。けど、もうないの」


「何か言ったエキウム?」


「何か言ってたのはノートの方だよ」


「そっか、ごめん……そうだよね。早く行かないと怒られるから急ごう」


「シンは優しい人、本当には怒ってないから大丈夫。怖くない怖くない」


そう言ってくるくると回りながら歩き続けるエキウムの服が揺れ、1番最初に死に掛けた時を思い出す。ローザが臙脂色の髪の医者で、ダリアは通信士だけど治療も担当している。

それなのに姿を見た事がなくて、実際に治療をしているのはローザしか見た事がない。


「君が疑問に思うのも仕方が無いよ、僕は不安定な存在だからね。ローザの様に気高く強くは居られない」


「その声は、君がダリアなのか」


小さな背丈の少年が突然目の前に姿を現し、まるで思考を読み取ったかの様に喋る。


「少しだけ話そう、こう見えてもRiotでは古参だから多くを教えられると思う」


「ありがとう、なら帰り道に少しだけ話を聞かせてほしい」


そうして3人で荒野の道を歩きながら夕暮れを見送り、逃げるように消えていった影と別れる。

日が落ちると突然冷え込むNodeの外は、風を受けてくれる建物がない為、冷たい空気を運んで来た風が肌を刺す。


「あの、gloryの説明をしてくれないかな。今知れてる所まで知っておきたくて」


「……gloryは30年前から観測されていた、その時に居た討滅者は神が創った化学の超集合体だった。最初に作られた同型の5体は日本各地に配属され、自我を持ちながら進化していった。挙句には人と全く同じ行動をとり始めた者もあった。そして創造物と言う枠を超え、新たな命をひとつの討滅者が遺した。それがエキウム、討滅者の血を引くエキウムはその歌声でgloryの能力を殺す事が出来る。何故か母親であるベルカとは真逆の補佐役になってしまったけど、唯一の対glory兵器に変わりはないよ」


「ウラノスレコードは対glory兵器じゃないの? 夢を武器にして戦うものなら、その解釈が適当だと思うんだけど 」


「本来ならgloryになる前に夢を回収するだけの掃除屋目的で作られたと思われてたけど、君はどうしてかウラノスの本意を引き出してしまったと僕は思ってる」


「引き出したら不味かった?」


「もう不味かったどころじゃない、それは願いを叶える願望器、君は夢を身に纏って戦っている事が何よりの証拠。僕らはその願望器を手に入れる為に、国家最高機密であるNode:0に侵入した」


目の前に表示されたウラノスレコードの解体図面のどこを見ても、解析不能の字が乱立していて、唯一の情報は対glory兵器とだけ。


「Node:0って、都市伝説でしか出て来ない地獄の様な場所じゃないの? 人類未踏産物が保管されていて、そこにはAIが進化し続ける為のAIが完全管理する街がある。そこに送られるのは死刑囚や重犯罪者、社会不適合者などが徹底的に管理されて……」


「ラナンだー!!!」


よく通るエキウムの声が遮蔽物の無い荒野に行き渡り、鮮やかな紅に色付いた空を背にこちらに来るBMを指さす。

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