第2話猫とお買い物
「、、、きて」
なにか遠くで聞こえる。
おかしいな、俺は一人暮らしなのに。
まだ夢の中なのかな。
「、、、、起きるにゃあ!!!」
「おわぁああ!」
耳元で大きな音がする。
耳がキーンとなってしまうほどの大音量に俺は慌てて飛び起きた。
見渡すと、そこは俺の知るマンションではなかった。
小さな木製のベッドと、テーブルとソファ。
天国というわりに、少し質素なようにも感じた。
「やっと起きたか、まったく。困った人間め。」
そんな声が聞こえ、そちらを見る。
そこには黒い長靴をはいた灰色の猫が立っていた。
声からして、どうやらこの猫が俺を起こしたようだ。
「えーと、君は?」
「にゃ、シン様から聞いてないのかにゃ?お前をサポートする『長靴をはいた猫』にゃ!これからよろしく頼むにゃ!」
両手を腰に当て、どや顔を見せるこの猫が天国での俺の生活をサポートしてくれるのか…。
毛並みの良いその長靴をはいた猫を暫し見つめる。
「よろしく。俺は夏目蛍。えーと、長靴をはいた猫って、名前長いし…ガクって呼んでもいいかな?」
「ガク、ふむ。悪くないにゃ。その呼び名を許可するのにゃ!」
ガクという呼び方はお眼鏡にかなったようだ。
緑色の目がしっかりと俺を見つめてくれている。
軽くぽんぽんとガクの頭を撫でる。
ふと外を見ると明るいので、日中と考えていいのかな。
「それじゃあ改めて、ぼくはお前、蛍をサポートするガクにゃ!ここ、天国について少しずつ話していくにゃ。ゆっくり一緒に頑張るにゃ!」
「ありがとう、ガク。よろしく。」
今のところあんまり天国感はないが、猫が喋っていることを考えるとやっぱり天国なのかな。
まずはベッドから降りてみる。
服はここに来る前に着ていた部屋着だ。
「天国は元々、食べたり寝たりが必要なかったにゃ。でも今は少しでも生きている世界に合わせるためにそれらが必要になったにゃ。だからまずはごはんを買いに行くにゃ!」
「へぇ、でもたしかに。食べたりするのも楽しみのひとつだもんなぁ。」
立ち上がって備え付けのクローゼットを開くと至って普通のプリントTシャツやジーンズが仕舞われている。
ごはんを買いに行くということなのでそれに着替えることにした。
白地に『春爛漫』と書かれたTシャツは趣味ではないので、食べ物と一緒に服も買おう、うん。
「さっそく出発にゃ!」
着替えてすぐに外へと出たがるガクに少し押されるようにして俺は外に出た。
歩きながら髪を手櫛で整える。
もともと癖っ毛なのでところどころぴょこぴょこと髪が跳ねているのを感じるが、まぁいつものことだし。
外は意外にも、きちんと青空も太陽もある。
目の前には都会というほどでもないが田舎というわけでもない、至って普通の町が広がっている。
「普通、だな。」
「にゃ、少しでも似せるためにシン様が頑張ったのにゃ。因みにお金の概念は無くて、お店はほとんど天使様やぼくたちのような登場人物たちがやっているのにゃ。」
「うーん、でも働くことも楽しみのひとつなんだけどなぁ。」
消費することや買い物することももちろん楽しみのひとつではあるが、働くこともいいことだと思う。
働くからこそ、休みの日は余計にうれしいし。
そのへんは会う機会があった時にシンに話してみようか。
「まぁ、とにかく行ってみるにゃ。ごーごー!」
ガクに促されるがまま、近くの店へ入る。
そこに置いてあるのは馴染みのある魚や肉、野菜だった。
よかった…まったく知らないものばかりだったらどうしようかと。
ガクは目をきらきらとさせて店内を歩きまわっている。
そういえば、最近まで食べることも必要なかったんだっけか。
「ガク、食べたいものあったら言ってね。」
「にゃ、全部食べてみたいにゃあ!」
楽しそうに笑うガクについこちらも笑みが零れた。
転生のすすめ マオ @mamama1363
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