カマガエル
安良巻祐介
最近家の近所を歩いていると、「カマガエル」の看板をよく見かける。
胡乱な目をした緑の蛙が、桃色の大口を開けて、両手に草刈り鎌を携えているのであるが、これがなんだかよくわからない看板だ。
というのも、白い地いっぱいに描かれた右の通りの絵のほかに、店の名前だとか、宣伝文句だとか、何かしらの詞書きがあるでなし、どういう目的で作られたものなのかが、見て取れないのだ。
「カマガエル」というのも、絵の見た目をそのまま呼び名にしただけで、看板にそういう字が載っているわけではない。
タッチとしては子供向けの絵本などのものに近く、線も太くて一見ファンシーな印象を与えるのだが、持っているのが鎌なのと、黄色い目玉が意図してなのかそれとも月日の経過や雨風のせいなのかどの看板も一様にどんよりと濁っているのとで、じっくり眺めていると不安になってくる。
構図は何となく、ステーキハウスなどによくある、ナイフとフォークを携えたデフォルメチックな牛の絵――あれもよく考えればけっこう猟奇的な意匠に思えるが――などを想起させる。しかし、蛙料理を食わせる店がこの近くにあるとは聞かないし、鎌、というモチーフは料理店にはふさわしくない。
それでも看板なら、それが立っている場所で用途や意図が知れそうなものだが、この看板はどれもこれも、道路の途中や、辻の真ん中、沼の傍ら、使われなくなった停留所の軒のそばや、そういう場所にばかり立っているため、何の判断材料にもならない。
場所が関係なく、複数の場所に無差別に立っているのなら、啓発や勧誘を目的としたビラに似た役割のものとも考えられるのだが、前述のとおり看板に何の詞書きもないので、その線も潰れてしまう。
一つだけならばどこかの誰かが気まぐれに描いて立てただけのもの…とも考えられるのだが、同じ絵でやたらとあちこちにあるため、個人の落書きとも考え難い。
ふざけた様な絵のくせに、考えれば考えるほどわからなくなってくる、最近はこの「カマガエル」のことばかり考えるようになっている。頭の中がカマガエルでいっぱいになって、他のことがあまり頭に入らない。
さすがに何となく、そういう効果を狙ったものだとはわかってきたのだが、今さらもう考えずに忘れることもできなくなっているから、ひたすら厭な気分になるばかりなのである。
カマガエル 安良巻祐介 @aramaki88
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