居場所

 学校の帰り道は恵美と一緒だった。


「藍子は彼とは仲良くしてるの?」


「えー、そういうのは言いたくないなー」


 恵美は私の脇腹を突いてくる。


「いいじゃん。聞かせなよー。私のおかげで付き合ってるんでしょー」


「それはそうなんだけど……」


「でしょー。和志の奴の浮気が見つからなきゃ付き合えなかったんだから。感謝しなさい」


「でも和志君は浮気してないんでしょ?」


「そう言い訳してるけど、どうなんだかね」


 恵美はずいぶん腹を立てている。でも、本当にそうだ。


 恵美がいなくちゃ出会う事もなかった。


 自分の事を知ってくれる。


 自分の事を覚えてくれる。


 自分の居場所でいてくれる。


 それは恵美も、和志君も同じだ。


 そんな存在はいくら探しても簡単に見つかるものじゃない。


 わかってはいるんだけど、恵美や和志君のおかげ、って言っちゃうと、恵美は更に調子に乗ってしまう。友人を調子に乗らせるのはちょっと癪だった。


「あ、藍子さん」


 駅前で私を待つ人がいた。手にはピンクの花束を持っている。


「え? 何で?」


 性格上、そういうものを持っているのが不思議だった。


「いや……、和志に言われて……。何でもない日に渡すプレゼントは、一番喜ばれるんだ、って」


 それを正直に言ってしまうのも性格なのかもしれない。


 だけどそんなところも含めて、恋に落ちてしまったのかもしれない。


 斜め後ろから恵美が覗き込んでくる。


「恵美!」


「いやー、またまたお熱い事でー 私は先に帰るから、二人で仲良くしなさいね」


 恵美はにやにやと笑いながら去っていく。


 その先には和志君がいるのだから、自分もお熱い事だ。


 そう言うと恵美はまた私の脇腹を突いてくるだろう。


 そんな揚げ足取りをしてもしようがない。


「じゃあ、行こうか?」


 私を待っている人がいる。


 私の居場所を、見つけた。

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忘れ者 芦屋奏多 @yukitotaiyonohi

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