第8話 黄昏に舞う魔法陣
「よ、よろしい……」
あまりと言えばあまりの出来事に、流石の老師も冷や汗を垂らしました。
「いやぁ~学生の時以来だったから、つい力が入っちゃった。てへっ」
この女、全然反省してませんね……
「てへっ」で許されるとでも本気で思っているのでしょうか?
一歩間違えれば、この場にいる全員が犠牲になっててもおかしくない威力の術をこんな場所で使う神経が信じられません。ただのお手本なんですから、もっと簡単な誰でも扱える魔法を選べば良いのです。それなのにノーアときたら……
おそらく、試験の時の事を根に持っているのかもしれません。
というのも彼女、実は魔学者になるのに三回も試験を受けさせられていたのですよ。それも三回とも合格してようやく称号を獲得した異例の学者だったりします。
なぜ彼女だけがそんな面倒なことになったのかは、今の行動を見れば一目瞭然。
それは、強力な魔法ばかり使いたがる彼女の変な拘りが原因です。
曰く「大技を効率よく完璧に制御することが最も難易度高い」そうで、要するに難関を突破することに喜びを見出す変態なんですよ、彼女。
なのに三回も似たような試験を受けさせられたもんだからって、流石に頭にきたようです。
といっても、彼女の選んだ術がどれも暴走の危険をはらむ物ばかりだったものですから、試験官の先生方としては一回の試験だけでは心
彼女からしたら納得いかないでしょうけど。
そんな経緯からか、彼女は先生方の術を破るのが趣味みたいになったようで、こともあろうに最終目標はあのファウスハイド先生なのだそうです。
身の程知らずとは、まさにこの事ですね。
ちなみに、ファウスハイド先生が試験官を勤められたのは、その三度目の時だけだそうです。最終判定の審判役に駆り出されたのでしょうね、きっと。
まあ、そのお陰でわたしも先生のお目に止まり辛うじて合格出来たのですから、あまり文句は言えませんけどね…………
「では、次は
気を取り直してと言わんばかりに老師が次の呪文を指定します。
「はい!」と元気良く返事したのはダビ。
ばさあっと、彼は黄色いマントを
すれ違い様にノーアがこっちに戻って来ました。
「マルちゅあぁぁぁぁ~ん! どうだった、あたしの新しい呪文?」
「ちょっとノーア、いきなり抱きついて来ないでよ……」
「あぁぁぁぁ~ん、マルちゃんのお肌スベスベして気持ちいいよぉ~」
「や、ちょっ……胸揉むのやめ……」
「にゃぁぁぁ~ん、マルちゃんのちっぱい尊い! モミモミじゃ物足んなぁ~い! チュパチュパしゅるおぉぉぉぉぉ~」
前言撤回、真性の変態でした…………
「この、いい加減に……ひゃぅっ!!?」
いきなり首筋に生暖かい感触。後ろからノーアがわたしの首に舌を這わせてきたのです。
「あり、しょっぱい? マルちゃんひょっとして濡れてるのかにゃ? ノーアさんに弄られてヌレヌレしちゃう変態マゾっ
もう(彼女の人生)ゴールさせても良いよね?
でもわたしは、にわかに湧いた殺意を何とか必死で押さえ込みます。が、ノーアの魔の手がわたしのお尻から股下へと忍び寄って来ました。
「の、ノーア! これ以上はぜっ、絶対ダメ!」
わたしは思わず叫びだしました。そして、
「ひゃっ!」とノーアが悲鳴を上げました。
「ちょっと、冷たいわね! 何すんのよ、この
「悪い、手が滑った」
ノーアの苦情にしれっと応えたのは、演舞台の上で意地の悪い笑みを浮かべながら黒板に寄っかかっているダビ。って、黒板?
ふと見ると、老師の横にあったはずの黒板がありません。
いつの間にあんな所に……
多分、わたし達がじゃれ合っている間に演舞台に運んだのでしょうけど。
その黒板には、青い
「これが
彼は床に座っている学生達にそう言うと、今度は黄色い
北に
混じり合う心に咲き乱れしは魂の花。
その意味を示す文字列が線となり、逆三角形を象ります。
そして、ダビはその文様に手のひらを合わせました。すると、文様が光を放ち、空中に雷の花が咲きました。
「わあ綺麗……」
手前で膝を立てて床に座り込んでいた
「今のはまだまだ序の口、
そう言ってダビは
それを左手で持ったまま顔の前に掲げ、念を込める様に目を閉じます。すると、
空中に突然、緑の炎が生まれました。それが獅子の頭をもつ
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