第6話 魔法の合同実習

 魔術とは、魔法を使役するためのすべ――

 魔法とは、魔道の理に基づく法則――

 魔道とは、魔という現世にあらざる存在を示す道――


 わたし達が学び、日々研究している『魔』という概念は実に奥深いもので、そのおこりは有史以前の神々の御代みよにまでさかのぼると言われています。

 その力を引き出すために道を探り、法に則り、編み出されたじゅつ。それが――


「我々が扱う『呪文』と呼ばれる言葉であり文字である」

 そう言って脚に車輪の付いた黒板に石灰筆チョークを走らせる老齢の講師。

 今は「土煙りが火のとき」で、わたしは『学び舎』 の魔学生達と黄昏の講堂で合同実習をしています。

 実習――すなわち魔術の実技演習です。

 嫌ですよねえ全く。わざわざ研究の時間を潰してまでやらなくても良いと思うのですよ、わたしは。

「やっぱ魔術研究に実技は欠かせないわ。日々うつうつと暗い部屋に籠って文献漁ったりするだけより、こうして青空の下で瞬発的に思い付いた術式を披露する。これぞ醍醐味ってモンよねぇ~。マルちゃんもそう思わない?」

「…………………………」

 隣でノーアが、わたしの想いと全く真逆の脳筋全開な台詞を吐いてきました。

 親友などといっても、考える事までは異なるようです。

「青空というには、うっすら黄色がかっていると思うけど。それから名前……」

「はいはい、リズちゃん」

「はぁ……」と思わず溜め息が零れます。

 だって、わたしねえ。

 ちなみに、講堂の屋根は開閉式になっていて、呪文一つで操作が可能というお手軽構造だったりします。

「どうしたのマルちゃん、溜息なんかいて?」

「…………舌の根も渇かぬ内に」

「だって、『リズちゃん』って何か呼びにくいんだもぉ~ん」

「なんで呼びにくいの? たったの二文字だよね?」

 流石のわたしも、この発言にはビックリです。

 どんだけ面倒臭がりなんでしょうか、この女は…………

「文字数の問題じゃぁないんだよぉ~」

「ひゃっ!」

 ノーアはうだうだ言いながら、いきなりわたしに抱きついて頬ずりしてきます。

「わかった、わかったから、くっつかないの!」

 わたしは彼女の顔を押し返し、なんとかその魔手から逃れて距離を空けます。

「もう、マルちゃんってばぁ~、照れ屋さんなんだから」

「照れてない、照れてない」

 などと、じゃれ合っていたところへ、

蒼穹あお天塔てんとう、これに――」と、老師からご指名がかかりました。

「ほらノーア、呼ばれてるよ?」

「ちっ、良いトコだったのに…………」

 ぼやきつつも、とぼとぼと歩き出す彼女。

 わたしにとっては「良いトコで(彼女を)呼びつけてくれまして、ありがとうございます」て感じです。

 名残惜し気に手を振るノーアを、わたしは満面の笑みで送り出します。

 こっち戻って来ないでね(ハート)

深紅あか斜塔しゃとう、これに――」

「…………………………はい?」

 どうやら神様は、みなに等しく試練をお与えになるようです。

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