第3話 幻想世界の申し子


 魔学堂の建物は、それぞれ役割ごとに中央講堂と東西南北と四つの塔に分かれています。

 東塔は、まだ称号を持たない『魔学生』が通う「学び舎」

 西塔は、わたし達『魔学者』が魔学研究に使う「研究所」

 北塔は、教諭資格を持たれた先生方が勤める「職務棟」

 南塔は、図書室や美術室などの施設がある「文芸館」

 ちなみに、お昼は中央講堂の一階にある食堂で食べるようになっています。



「ねぇねぇ~マルちゃん、今日もアップされてるわよ」

 わたしがドラゴンテールの衣揚げに舌鼓を打っていると、横からノーアが膝の上を揺すってきました。

 ていうか、なんでわざわざ膝の方を選ぶの? 肩とかで良いよね?

 て言うか、さりげなくスカートの中に手を入れようとしないで欲しい……

 わたしは、おイタするその手を払い除けながら応えます。

「アップって、例の精霊劇場フェアリスチャネル?」

「そうそう、キスカ=エルたん。カワイイよねぇ~彼女」

「でも精霊って、現世には存在しないんでしょ?」

「だからこその精霊劇場フェアリスチャネルでしょぉ~。精霊が具現化できる唯一の空間――魔幻界域アストリア――の様子を覗ける術式ツールなんだから」

 ノーアはそう言って誇らしげに手のひらサイズの石板をかざしました。

 石板の手前では、円の中に描かれた五芒星から飛び出したように、愛らしい蝶を象った赤い帽子をかぶった小さな精霊が手を振っています。

 小さいものは良いですね。なぜだか無条件に愛せる気がします。そういった魔力めいたものが小さいものにはあるようです。

 ちなみに、彼女が持っているのは魔板クルホと呼ばれる魔力通信用の端末で、石板の上に描かれた魔法陣を使って遠くの相手と通話したり、今みたいに魔幻界域アストリアの映像を具現化したり、その膨大な叡知から知りたいことを検索したりできる優れモノ。

「にしても、これを開発した魔学者は相当な法陣呪文サークル使いよねぇ~。あたしは専門外だから解んないけど、あの天災バカだったら仕組みが解るのかしらねぇ~」

「そういえばダビは?」

「あたしが知るわけないでしょ。むしろ、マルちゃんの方こそ知ってるんじゃないの?」

 しかし、わたしも「知らないよ」と首をゆっくり振ります。

 知らなくて当然です。いつもダビの方から絡んできてるだけなんですから。

 本当ですよ?

「まぁ~、あいつもアレでだし、案外忙しく駆けずり回ってたりして」

「そうかも知れないね」と、わたしは適当に相づちを打ちました。

「知っててとぼけているって感じでもないかぁ~」

「だから、知らないって言ってるよね?」

 存外に疑り深い彼女です。

「そう言えば、午後はあの大先生の講義でしょ。やっぱり出るの?」

「もちろん! ファウスハイド先生の講義はまさに一刻千金。一回でも休んだら、もったいない事この上ないよ」

「そこまで言うかぁ~」

 フンスと鼻息を荒くするわたしに、ノーアはどこか呆れ顔で返します。

「しかし、あの先生なんて言うか少し癖というかアクが強過ぎるのが玉に瑕なのよねぇ~」

「そこがまた浮世離れしていてカッコ良いでしょ?」

「そう思ってんのは、多分マルちゃんだけだと思うよ」

「どうでも良いけど、さっきから名前っ!」

「はいはい、リズちゃん」と悪びれなく訂正する悪友。

 本当にしょうがないノーアさんです。

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