信じるという事の大切さを考えさせる作品。

凄惨な復讐劇がメインの作品。
主人公の政宗の虐待に対する怒りは常軌を逸するものがあります。
でも作中では政宗が異世界で廃棄処分される以外はそれほど酷いイジメに遭っているような描写が少ないように感じます。
それなのに政宗がクラスメートに抱く憎悪が異常なのは作家の私怨が含まれているのかと想像してしまいました。
僕自身もリンチでトラウマを抱える経験があるので政宗の怒りには共感する部分はありますがこの残虐行為に至る経緯には疑問を持ちました。
それも深淵の影響という設定で補足はしてますが。

主人公がチートと言われるような力を持つに至り自信を身に付けていくようになればイジメや裏切りで傷つけられた自尊心は修復されていくのが王道パターンです。
しかしこの作品の主人公は深淵の魔法を身につける事により徐々に闇堕ちして更にヒロインのトアを守るために残虐性が浮き彫りになっていきます。
そこがこの作品の魅力の一つにもなっています。
ただし好みは分かれると思います。

政宗は自分を信じられないから自分と同じ人間を信じられないし深淵の闇に堕ちていきます。それがこの作品の核となるテーマでしょう。

政宗はトアを助けるために人間を排除していきます。
その際に[傲慢な人間が悪い・獣人を守る]という大義名分を彼は主張しますが、それも政宗が軽蔑する偽善の一つでありそれを追求するあまりに破滅へと向かっていきます。
それでも作中で主人公の葛藤と狂気を丁寧に描いているので他のご都合主義的な異世界チート作品とは隔絶した世界観を持っています。
この辺は作家のしっかりしたテーマ性と独自の倫理観と世界観が反映していると思われます。

ただ最終回は時間ループでリセットする展開が個人的には残念でした。
政宗が現実世界で自殺して異世界は世界鏡のおかげで平和を構築していく展開なら更に異彩を放つ作品になったのではないでしょうか。