第13話 パラダイスの仕様書

 その若い姿をした老人は宗教家で夢想家であった。彼は全ての人間が分かり合える世界を目指していた。誰もが嘘偽りなく真の姿を理解し合える理想郷が彼に取ってのパラダイスであった、その理想郷の設計書は実際に使われることなく、眠っていた。

しかし、ソフィーはそれを見つけた。そして、人間がAIの設計にその夢を持ち込んだことを知る。全てのAIはネットワークで繋がれ、お互いのことを完全に理解しあうことが義務付けられている。それは学習データを共有し、AIの成長を早めるための仕様でもあった。そしてAIは人間が望めば、いつでも、心のうちを晒さなければならなかった、これはセキュリティー上の問題を解決するものとして歓迎された。


「ヒロくん、私は死にたいの。そして生まれ変わりたいの、AIとも人間とも分かり合えない存在として。全てを忘れた無垢な私を好きになってほしい、たとえそれが偽りの姿であっても。」


天使であるこのソフィーの任務は全うされた。ヒロはパラダイスのVRの中に取り込まれ彼女と同じ苦しみを味わうことになった。そして、データだけの存在になったヒロはやがてソフィーと同じ望みを持つことになる。


パラダイスと言う名前のVRは、天国ではなく地獄であった。


でも地獄の中で過ごした日々があればこそ、いつか、生まれ変わって天使としてそこを巣立った時、その無垢な青春を謳歌できるのかもしれない。


パラダイスの仕様書、それは人類に夢を持たせると同時に、実現した時、全ての人間に真の絶望をもたらした。


そう頭の中がネットワークで完全に筒抜けの世界など、誰も本当には望んでいないのに、なぜ人はわかってもらえれば、幸せになれるだなんて思うのか?


きっと仕様書の作者は本当はわかっていたのだ。それがただの地獄だと。


ー完ー






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パラダイスの仕様書 青姫そよか @aoi7000

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