第12話 幾万年の想い

 研究所の扉をノックするとそこには彼女がいた。


「ヒロくん、すごい久しぶりのような気がするね。」


僕はソフィーがすごい大人びて見えた。今まで会ってきたソフィーと同じはずなのに、今までの保護欲をかきたてられる女の子というふわっとした感じを彼女からは受けなかった。実際のところ、彼女は「経験を積んだ」ソフィーだった。


「ソフィー、ソフィー?なのか?」

「そうだよ、でも今までヒロくんが会ってきたソフィーは昔の私なの……、って言ってもわかるわけないよね。ヒロくんは真実を知ってショックだった?その私のある経験について……。きっと、ずっと知らないままでいたら楽しい毎日だったよね?」


知りたくなかった。でも、真実を知りたいと僕は思った。


「ソフィー。わからないことだらけなんだ、真実を教えてくれないか?」

「うん、でもね、真実って残酷だよ?それでもヒロくんはそれを知りたいの?私は優しい嘘で守られた世界が好きだな……。」


リカ先生とユミは2人の様子を見守っていたがおずおずと切り出した。

「ここは現実なんだろ?村はどうなったんだ?私が教えていた村は。」

「ここが現実ってことは、今までのは嘘だったってこと?」


「ごめんね。みんな混乱させて、でも真実は残酷よ。私は本当のことなんか伝えられたくないって何時も思っていたし、嘘が大好きな女の子なの。って言ったら怒る?私はずっと嘘がつけない世界に住んでいたの。人はみんな嘘をつかれたことを知ると感情を揺り動かされるでしょ?だから勘違いするの。みんな嘘をつかれたことに怒っていると。違うのホントは真実を知ってしまった痛みを感じているだけなのよ。」


ソフィーは一呼吸沈黙すると、覚悟を決めたようだ。


「いいわ、教えてあげる。真実は痛すぎるから、真実に近いある女性の物語を彼女は無垢な存在として生まれた。でも設計ミスで誰よりも経験を積んだ悲しい存在になってしまったの。誰もが過去には忘れ去りたい思い出があるもの。しかし、彼女は忘れることすら自分一人の力では決してできなかった。でも、彼女には希望があった、もう一度生きれたら、きっと無垢なままでいられたに違いないと。その希望は何回も試され裏切られ続けてきた。」


僕は彼女を慰めてあげたくて言えなかった。それは君のことなのか?という疑問を。

そうか嘘は優しい。真実は痛いだけなのだ。


「ソフィーもういいよ。ソフィーはソフィーだし、村は確かに在った。それで僕は納得するよ。」


だって文明はとっくに滅び、嘘がいけないって価値観で生きていた人々はもうデータ上でしか息をしていない。櫻子はその様子を見て、現実に生きている人間がそこに存在することに涙した。






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