星降る店で
なののっと
店、出会い。
この場所に出会ったのはひょっとすると平々凡々な私に神様がくれた少しの奇跡なのかもしれない。
いつもの登下校の道、イヤホンから聞こえるいつもの音楽いつもの鉄仮面を並べていつもと同じように帰っていた時、今から思えば理由が何だったかなんて覚えていない。けど、いつの間にか道を外れていた。歩くのに疲れて顔を上げるとこの都会の狭い路地の高い建物が並ぶこの街で看板も無く、ただCafeとだけ書かれた木の板を見つけた。
たくさんの人がその高い建物に目がいくだろうその路地でここは珍しく、そして私にはたった1つ地下に埋まったお店だった。
最初で最後、こういう冒険をしたなと未だに思う。普段こういうお店は来ないし、来たとしても友達と…だと思う。ぐるぐる回る薄暗い階段を降り、古い重さのあるドアを開けた。これほどパチパチっとした感情を持って顔に出たのはこれがはじめてだったかもしれない。
開けたその先、私の過去最大の期待を裏切らない、それどころか超えてくるぐらいのその場所は星が降る店だった。
店員さんが挨拶をし、席に案内してくれたその場所で私はもう1度辺りを見渡した。地下にいると光が入らないからもっと綺麗な星に見えた。その正体は大きさが全く違うたくさんの光に和紙に見えるのを色々な形に覆った灯篭のようなものだった。唯一、灯篭と違うかったのはそれが天井から吊り下げられていることだった。
しばらく眺めていたら店員さんの声が私を現実に戻した。お店であることは間違いなさそうだからとりあえず人気のものは、と聞けば同学年の女子が好きそうなスイーツやこういうお店にありそうな横の文字のメニューがたくさん出てきたのでパンケーキを頼んでみた。これぐらいは私も知っている。知ってますとも。女の人はここのはちょっと違うんですよと言いながら少し意味深でイタズラっぽい笑顔を私に向けた。颯爽と歩くその人の後ろ姿を数秒眺めながら考えた、その違いというものは私にはよくわからない。そしてあの人のあの顔どうやったらあんな顔ができるのだろうか。感情のお面。付けたり貼ったりするような表情。
ここまで話して気づいたかもしれないが私という人間は感情が乏しい奴らしい。頭で考えているから、というのが自己結論ではあるが、私から言わせてみればそれでもいいのだ、がそれが事実でないから癪である。友達の話は面白いし、中学の時やっていた部活は楽しかった。けど、それが顔に出なければまた言葉にすることもなかった。私のごく普通、悪く言えば何も無い日常にとってそれは全くと言っていいほど不自由にならなかった。
でも、それが私にとっての最大かつ最小の悩みである。そして、さらに面倒なのはそれを自覚している事である。
星降る店で なののっと @nanonanonot
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。星降る店での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます