第23話 風夏との再開

  私が文学部に入部していろんな事を経験した...わけでも無く、部室に籠り、私、夏子ちゃん、部長の三人が静かに読書や勉学に励む事しかしていなかった。

  だけど私は、三人で集まってそんな何気無く過ごすのは個人的に楽しかったと思う。

  やっぱり一人で読書するよりも、複数人で読書をすると何だろう...安心感があるのだ。

  自宅の自室で籠るのは静寂な部屋で人気が無い寂しさがあったが、ここでは何気ない会話があるのが安心させるのだろう...。

  やっぱり人間は一人ぼっちじゃすぐに孤独死しちゃうな...。


 「エリカちゃん、夏休みって用事とかあるのー?」

 

  カラスが本を捲(めく)りながら、エリカの方に向いてそう言った。

  エリカは本をパタリと閉じ、こう答えた。


 「まぁ横須賀に居る友達に会いに...」

 「ふーん、夏子ちゃんはー?」


  夏子は課題に煮詰まって、鉛筆を口にくわえて上の空の様子だ。


 「私はエリカちゃんの友達に会いに行こうと思って同行しますよー」

 「夏子ちゃんもかー。どーしよー私なんも予定ないやー」


  部室は机に寝そべった。


 「そうなんですか」


  エリカは特に興味無さそうに、閉じた本をまた開いて読書を再開し始めた。

  その様子を見て不満そうな部長がぶーたれていたが、急に立ち上がって夏子の方に忍び足で歩み寄る。


  ピタリと彼女のうなじに、カラスの冷たい手が触れて夏子は思わず


 「ひゃあ!」


  とコンニャクを当てられた様な、可愛らしい声を上げてしまい、悪戯(いたずら)を仕掛けた張本人は小悪魔な表情をしながらケラケラと笑っていた。


 「もう!部室ったら何するんですか!」

 「まぁまぁそんな怒らないでー暑いでしょー?私のキンキンに冷えたこのおててクーラーで夏子ちゃんを冷やしますよー」


  そしてもう一度、次は彼女の太股(ふともも)を触り出す。

  彼女の行為を横目に見ていたエリカは、特に暑さのせいで集中力がとっくに切れていた為、自分の額に流れる汗を自分のハンカチで拭き取る。


 「すいません、ちょっと御手洗に」


  エリカはその乾いたハンカチが気に入らず、ハンカチを濡らしてこようと目論んだ。

  無論カラスは現在進行で夏子の太股(ふともも)を触っていたもののピタリと止め、彼女についていこうとする。

  困っていた夏子は助かったと安堵(あんど)して自分に課せられた課題を終わらせる為に必死だった為、彼女がエリカについて行くことは無かった。


 「私もー」

 「部長、元気ですね」


  エリカとカラスは部室から退室し、廊下を左手に渡った右手側にあるトイレまで向かうとした。

  カラスは自分の寂しさから故か、何かと構ってきたがエリカは暑さにちょいとイライラしており、やめてくださいの一点張りだった。


  流石のカラスも何回も拒否されると心底落ち込み、トイレに入る瞬間から出る瞬間までは一言も喋らなかった。

  その短い間だけだが。


  二人が部室に戻ると、夏子は血眼になって課題に取り組んでおり、エリカは濡らしてきたハンカチを彼女の額にあて、汗を拭いてやる。

  夏子は冷たいハンカチで熱が冷め、多少楽になったと感謝した。


  それを横目に見ていたカラスは、自分の手よりもハンカチかよと嫉妬し、面倒くさくなった夏子は、貴女の手の方が助かりましたよと言う。

  エリカも空気を読んでフォローしてその場はなんとか収めた。


  あれから数日後、遂に柏崎中学は夏休みに入った。

  エリカは特に風夏ちゃんに会えるとウキウキして居るものの、彼女は異世界書房のメンバーらがどう云う風に過ごすのか気になっていた。


  夏休み初日は自室に籠り宿題を早く終わらせるよう努力する。

  エリカの母が何かとうるさい為である。


  エリカはたった二日でワークを終わらせ自由研究は無い為、残すは日記のみとなった。

  彼女がここまで早く終わらせられたのは勉学が得意なのもあるが、夏休み初日に夏子が家に来たのが大きかった。

  夏子は彼女に夏休み前、ちょくちょくこう言っていた。


 「夏休み入ったら宿題終わらせる為に手伝ってー」


  と。エリカは勿論了承した。

  この様な事をしつこく言ってくるのは不安からくるものだろう...。

  エリカは


 「安心して。絶対手伝うから。忘れてたら勝手に家に来ていいよ」


  と釘を刺す。

  これで彼女が言わなくなったのである。


  まぁ約束通り彼女が来て、二日目も滞(とどこお)り無く終わった現在、なんと二日目の昼に終わったものだから暇であった。

  二人は風夏に会ったらどうしたいかなどの計画を立て、彼らが風夏にプレゼントしてくれた宮沢賢治の短編集を黙読したりした。


  また、エリカは娯楽物が無いものの夏子は豊富に持っており、本日も多少の娯楽物を持ってきてた。

 

 「??これは?トランプ?」

 「んーと、ウノっていうやつ。え?知らないの?」

 「う、うん...どうやるの?」

 「シャッフルして7枚配って、同じ数字・同じ色・同じ記号のカードを重ねていって手札が無くなったら負け。2枚引けとか4枚引いて色を指定しろとか、そういう特殊カードもあるよ」


  夏子は簡単に説明した。


 「へー。面白そう。やろ!」

 「うん、いいよ」


  興味を示した彼女は早速始めた。

  始めて一時間ほど経つと、二人は彼女の部屋の床に寝そべっていた。

  クーラーが効くというもの、ガンガンつけるなと母に言われている為風速が弱いのと、夏の独特な暑さがある為である。


 「うへぇあっつい...」


  夏子は汗をガンガン流しており、そういう夏子を見て考え込んだエリカは打開策が閃いたのか、立ち上がる。


 「水風呂入ろうか」

 「おぉ!いいね!」


  二人は水が張っていた風呂場に移動する。


 「良かった、栓抜いて無くて」


  安心したエリカは服を脱ぎ、籠に入れた。

  夏子も彼女と同じ籠に脱いだ服を入れ、風呂場に入室する。

  二人はシャワーを浴び、水風呂を楽しんだ。



  さて、本日は風夏と出会う日だ。

  二人は幾(いく)らかの荷物を持って横須賀駅に向かう。

  なお母親はおらず、去年までは彼女が横須賀に行く時は付いてきたものの今年は二人だけで行きなさいという事だった。

  電車で数時間、やっと横須賀に着いた二人は電車から降りて周りを見渡すと思っていたイメージと違ったのか夏子は


 「あんまり都会じゃないんだねー」


  と云う彼女にエリカは同意する。


 「まぁここら辺はねぇ...あ、おーい!!」

 「エリカちぁーーん!!」


  エリカは駅のホームから手を振る風夏の姿を見つけ、駆け寄った。

  風夏の方へ駆け寄り、二人は抱きつくも風夏は夏子を見て少し怯えていた。


 「え、エリカちゃん?その子は?」

 「あ、紹介するね。クラスメイトの夏子ちゃん」


  そう言うと紹介された夏子は彼女に駆け寄って握手を求めた。


 「初めまして種子島夏子です!んーなんで来たかってのは...エリカちゃんから話聞いててね、応援してあげたいなぁって思ったからかな」


  風夏はまだエリカに抱きついているも、少し笑って夏子の握手に応じる。

 

 「うわぁー可愛いねぇ!本当に可愛い!!」

 「...その...夏子さんの方が可愛いですよ?」

 「ちゃんでいいし、タメ口でいいよーもーー!私に気をつかっちゃメよ?」


  夏子は駅のホームど真ん中で悩殺(のうさつ)ポーズをして注目を集める。

  人はまばらだったが、一緒に居たエリカの羞恥心の値がピークを迎えるレベルはとうに超えていた。


 「ふふ...面白いね」


  風夏は彼女との緊張がなくなったのか微笑んだ。


 「あの子はああいう子なの。人前で恥ずかしいことばかりで...もう夏子ちゃん!」

 「あはははは!」


  風夏が声を出して笑っているその様子に安心しきった表情でエリカと夏子が見つめていた。


 「あ、そうそうエリカちゃん!私ね、中学校に入ったの...」


  その急な告白にエリカは驚いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界書房の出張所! 近衛ハル @haru_Konoe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る