第22話 江戸川乱歩 鏡地獄/文学部部長カラスちゃん

  テスト休み明けの学校の放課後、夏子とエリカは一枚のプリントを書く為に教室内に残っていた。


 「早く出さなきゃね...入部届け。名前書いて...文学部...と」

 「うんうん、私も文学部っと」

 

  上からエリカ、夏子。


  彼女らはそのプリントを持って職員室に行く。

  顧問の先生に渡し、滞(とどこお)りも無く受理された。

  文学部は何時でも活動してる為...との事で部室に二人で向かう事にした。


  廊下で黒くて長い、艶(つや)やかな美人が通りかかり、二人と鉢合わせをする。

  彼女は静かに礼をして歩き始めた。

  彼女らもまた、歩き始めた。


  同じ方向だった。


 「ねぇ、どうしたの?」


  不幸にも同じ方向に向かってる彼女が彼女らの方へ向いて、ちょっと機嫌悪そうな表情で訊(たず)ねてきた。


 「え?いやー文学部の部室に向かおうと思ってまして...」


  夏子は恐怖心はあるものの、何とか伝えた。

  冷や汗が凄いが...。

  彼女は驚いて二人を交互に見て何か考え始めた。

  二人はお互い目を合わせて、ハテナマークを頭の上に浮かべる。


  そして彼女がいきなり手を広げてこう言った。


 「ようこそ...我が城...文学部へ...私が部長の高等部1年、冬鳥カラスよ。歓迎するわ!」


  あまりの豹変ぶりにお互い息を呑んだ。

 

 「ん?どうしたのかしら。早く行きましょ」


  カラスは二人の手を握り、歩き始めた。

 

 「あ、あの部長!文学部って普段どんな活動をしてるんですか?」


  エリカは気になっていたことを聞くことにした。

  カラスは立ち止まった。


 「ふふふ、良くぞ聞いてくれました!...我々文学部はね...」


 「「文学部は...?」」


 「帰宅部と同然の部活よ!」


  ドサーと倒れたくなる様なそんな気分だ。

  夏子が苦笑いをしている。


 「えっと...本を読んだり...とかは?」


  エリカは最後の希望があるかとばかり深いところをついてみる。


 「勿論読むわ。でも部員がたった3人だから、個々の都合で休みが多くなったりするわね。一応プライベート第一優先ですから!」


  ドヤ顔である。

  ん...3人!?


 「えっ三人!?」


  夏子が驚く。


 「そうよ。私と...あ、貴女達の名前を聞くの忘れていたわね。其方(そちら)は?」


  カラスは夏子の方へ向いて指をさした。


 「私は中等部一年の種子島夏子です。こっちは同じクラスの伊紙エリカちゃん!読書に興味があって入りました」


 「いい心掛けね。それで三人と云うのは...私以外辞めちゃって...皆他の部活に移動しちゃったのよね...。雰囲気が馴染めないとかなんとか...」


  あぁ...なんかわかる気がする...お互い顔を見合わせて苦笑いをする。


 「それで...文学部は存続できるんですか?」

 「名前だけ残してもらったわ。だからほぼ帰宅部なのよ」


  エリカは納得した。


 「ま、兎に角部室に行くわよ」


  カラスは二人の手を引き歩き出した。


 ―――文学部 部室―――


 「ここが部室。好きに使って」


  文学部の部室はあまりにも質素な、殺伐とした一室だった。

  高等部の棟なのだが、恐らく準備室の様なものだろうか。

  後ろに机と机をくっつけて、バーと沢山の机がセットになって並べられていた。

  カラスは入室と共に自分の荷物を真ん中にちょこんと置いてあった机の上に置き、椅子に座った。


 「好きな机と椅子を後ろから運んでいいわよ」


  そして彼女はカバンから本を取り出し、読み始める。

  二人はとりあえず彼女の言う通りに実行し、カラスの右横にエリカ、その右横に夏子と並んだ。


  エリカは彼女の読んでる本が気になり、声を掛けた。


 「部長は何の本を読んでるんですか?」

 「ん?江戸川乱歩の鏡地獄よ」

 「へー、怖い話ですか?」

 「あら、エリカちゃんは怖い話苦手?」

 「そ、そんな事ないですよぉ」

 

  エリカは多少焦る。

  その焦った姿を見てカラスは笑った。


 「ふふ、この本はそんなに怖くないわ。この本は...」


  鏡地獄

  幼少期からガラスのビイドロや望遠鏡などに触れていた彼は、物の姿の映る物、たとえばガラスとか、レンズとか、鏡とかいうものを、異常に好むようになる。

  そんな彼の少年時代はガラスの浮き彫りを見せてくれるような、そんなにんげんだったが、彼の中学時代からかなり変わっていくことになる。

  物理学を学んだ彼はレンズや鏡の理論を深く夢中になってしまい、レンズ狂になっていく。

  彼は沢山の鏡を集めては、奇妙な実験をしていた。

  彼が中学を卒業すると、進学はせず、庭の空き地に実験室を新築し、彼はそこに引きこもることになる。

  そして彼の両親はお互い亡くなってしまい、莫大な資産を得た彼は、これまで以上に自由に、奇妙な実験に費やすことが出来る様になった。

  そんな中、彼の使いの者は、大変だと彼の唯一の友人を呼ぶことに。

  彼の研究室に置かれていたのは巨大な球状の、外部に布が張り詰められている奇怪なものだった。

  その球体はまるで生きてるかのようにシューシューと言いながら動くのだ。

  その場に居た使用人達は言葉を失った。


  そしてよく見ると扉のようなものがあり、友人はもしやと思い彼が中に入ってるのだと顔を青ざめて周りを見る。

  ハンターを見つけた友人は、球体をぶち壊し、球体のガラスがバラバラになった。

  その中から這い出て来たのは紛れもない彼だった。

  かなり発狂したようで身なりは恐ろしく、彼の使用人達も飛び退く程だった。


  その後、ひょっこりと出勤してきた技師が現れ、技師に問いただすと彼に雇われ、注文されていたというのだった。

  友人は技師を返し、看護を呼んでなんとか場を収めた。


 「こんな感じかなー。ちょっと難しい本よ」

 「こ、怖いじゃないですか!」


  エリカは震えていた。

  そんなエリカを見たカラスは抱き締めて、


 「強がってたエリカちゃん、可愛かったわよ」


  と頭を撫でた。


  夏子は怪談に関しては大の苦手で、カラスが喋っている時はトイレに閉じこもっていた。

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