終章 新たな旅立ち
ユヒトたちは馬に乗って、北東へと向かっていた。
風は冷たく、周囲の景色は白い雪で覆われていた。
そこには三つの馬影。そして、そのひとつの肩の上には白い獣の姿があった。
「東の国までは、まだまだ長いぞ」
ギムレが言った。その顔は、セレイアまでの旅の間に、さらに貫禄が増しており、たくましさも以前とは比べものにならないほどとなっていた。
「まだユヒトの父親の行方もシームセフィアの剣のことも掴めていないが、この先にその情報も転がっているかもしれない。いろいろやらねばならないことは山積しているが、前へ進んでいくしかないだろう」
そう話すエディールの目は、深い光をたたえていた。彼もこの旅でたくさんのなにかを身につけていた。
「はい。ここまできたら、行けるところまで突き進んでいきましょう」
ユヒトもまた、旅に出たころからぐんと成長していた。もう、戦いに怯え、初めての旅路に戸惑っていたなにも知らない子供ではなくなっていた。
その顔はすでにもう、一人前の冒険者の顔である。
「フェリア国も、これから北の国に調査隊を派遣すると決めた。ナムゼも国同士の話し合いをするべく、まずは西の国セイランへ向かうようだ。オレたちは東の国ハザンの使者としてそちらに向かう。ナムゼのほうの進捗情報も気にはなるが、旅の途中、各地に派遣されたフェリアの兵士からいろいろ情報も入ってくるだろう。これから先、このシルフィア全土が大きく動くことになるぞ」
ルーフェンは尾を立て、きらきらと輝く雪の白さにも負けない美しい毛並みを見せていた。
「まあ、聖王様からじきじきに大任を任されたからには、とにかく言われたとおり、東の国の王都を目指すしかないやな」
「そうだな」
「行きましょう。この先へ。きっとそこに、シルフィアを救う道はあるはずです」
「よし。次の目標ははっきりした! まず目指すは東の国ハザン。聖王と会って、フェリアとの協力を約束させる。そして、このシルフィアの危機を乗り越えるべく、みなで頑張る! わかったなユヒト! 髭男に優男の二人も!」
ルーフェンがそう言ったところで、ギムレとエディールが馬の足を止めた。
そして、ぎろりとユヒトとルーフェンのほうに痛いような視線を向けた。
ユヒトは嫌な予感がして、慌ててルーフェンに言った。
「ル、ルーフェン! だから、その呼び方は駄目だって言っただろう。ほら、早く二人に謝ってよ!」
「ん? なにかオレはおかしなことを言ったか? オレは本当のことしか言ってないぞ」
「ルーフェン!」
そのあとは、また例によってユヒトが頭を抱える事態となっていた。
彼らは行く。
ただひとつの目的のために。
長い長い旅路を、ひたすら続けていく。
彼らの遙か遠く上空に、一羽の鳥が飛んでいた。
鳥は彼らを導くように、彼らの向かう先へと飛翔していく。
世界は美しい。
――その力が失われつつあるとしても。
「ユヒト! その犬ころをこっちに渡せ! いい加減その生意気な口をたたき直してくれる」
「そうだ。風の竜の分身だというのに、なぜこんなに口が悪いのか。非常に理解に苦しむ。一度真剣にその辺りを矯正することを考えなければならん」
ギムレとエディールの妙な迫力に、ルーフェンはさすがに身の危険を感じたように、ユヒトの懐へと潜り込んだ。
「ユヒト! あの二人、きみがなんとかしろ! 神竜に対して恐れ多いということをあいつらは理解していないようだ」
ルーフェンの台詞に、ユヒトは大きくため息を漏らした。
「ああもう。どうしてみんな、こうなんだろう……」
頭を抱えるユヒトの顔には、そう言いながらも、笑顔が浮かんでいた。
幾多の困難が、その先には待ち受けているだろう。
これまで以上の戦いが、その先に待っているのだろう。
だが、それでも彼らは歩みを止めない。
なぜなら、彼らの胸には固い信念が刻み込められているからだ。
世界を救う使者たちは、その美しい世界を護るために、またこの長い長い道のりの先を目指して、ただひたすらに進んでいくのだった。
――第一部完――
そして世界に竜はめぐる 美汐 @misio
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