それぞれの思惑 ②
「川元・・・・・・?」
「はい。そちら側の補給部隊を襲撃、壊滅させたり、有力貴族を王女側に寝返らせたり、もしくは領地を取り上げたりするために裏で行動していた部隊の総隊長を任せられております」
自分が全ての元凶であるという事を堂々と口にした。
ゼスフィルドは悠弥から間合いを取り剣を抜いた。
その間合いは互いに一歩踏み込めば命を奪える距離だった。その間合いを一瞬にしてとった王子の身体能力は思いのほか高い事を悠弥に印象付けた。
「目的は?」
「はい?」
「貴方の目的を聞いているのだ」
「目的・・・・・・ですか? そうですね・・・・・・」
タバコの煙を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「貴方達を殲滅する事・・・・・・ですかね?」
今度は無表情で言い放つ。
「では、何故襲ってこない?」
「襲撃する事は簡単です。我々の部隊の実力をもってすれば、貴方の命は勿論、貴方の母親や叔父上を殺ろうと思えばいの一番に出来たのですよ?」
遠巻きにいつでも殺せるぞ、という事を伝えた。
王子はゆっくりではあるが、少しずつ間合いを詰めようとしていたのだが、悠弥の放つ異常なまでの殺気に呑まれ、足が動かなかった。それと王子と悠弥の周りを
包む殺気にも気付いていた。
これが悠弥の言う『闇舞』の気配だというのはすぐに分かった。だが、数が多く、これだけの包囲網を切り抜けるのは困難であると判断した。
「王子。貴方は頭の切れる方みたいだな」
「何を?」
タバコを湖に投げ捨てると、一歩王子に近づいた。
「貴方は今この周囲を囲んでいる我が部隊の気配に気付いた。しかも、自分がどの様な状況に置かれているかも瞬時に判断した」
言いながら王子の乗ってきた馬車に視線を向けた。その馬車の影に隠れこちらの隙を伺っている人物に悠弥は気付いていた。勿論、王子もそれに気付いていたが、二人でもこの場を切り抜ける自信は無かった。
「そこで王子。貴方に一つお聞きする」
「何だ?」
「貴方は王女と本気で戦争をする気ですか?」
「・・・・・・は?」
「勝てないと分かっている戦争を何時まで続けるのかと聞いているのです」
「それは・・・・・・」
「王子。貴方さえ良ければ私が王女との会談の場を設けます」
「・・・・・・それは本当か?」
切っ先を下げずに悠弥を見る。
目の前に立つ男の眼には嘘はない。
そう王子には見て取れた。
「貴方さえ良ければ・・・・・・ですが」
新しいタバコを取り出し、火を点けた。
「これは、我々と連絡を取る時に使える文言が記されております。王子、一週間後の今日、再びここでお会いしましょう。その時は王女をここにお連れ致しましょう。ではこれにて。あと、あのお嬢さんにお伝えなさい。もう少し気配を消さないと我々には勝てぬと」
言って悠弥が王子に背を向けると同時に周りを包んでいた気配が一瞬で消え失せたと同時にルリアが息を切らせながら王子のもとへと駆け付けた。
「ゼスフィルド様!! お怪我はありませんか!?」
「あぁ、大丈夫だ」
「あの男は一体何者です? どこからともなく現れたと思った瞬間、周りを殺気が包み込んで・・・・・・」
ルリアも経験した事ない感じだった。
「ルリア。私は来週もここに来る。お前はその日は休みをあげるからゆっくりとしなさい」
「し、しかし・・・・・・」
「いいね」
王子はルリアの肩を軽く叩いてから馬車へと戻ったのだった。
異世界統一異聞録 たにやん @taniyan
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