それぞれの思惑
悠弥率いる『闇舞』は、最初の相手側補給部隊襲撃から間髪を置かずに相手側の有力貴族を次々に撃破していたった。
手法は最初と同じく、相手側の大将を捕らえ少々手荒な真似を行う。または、相手側の弱味に付け込み切り崩すといった手段を取っていた。そして、最終的には領地を全て王女に引き渡すといった書簡を書かせ、国から退去させていったのである。
これがと少しずつではあるが、相手側にジワリジワリと効き始めていた。
そんなある日、ティアナ王女の腹違いの弟であるゼスフィルド王子は屋敷を出てとある場所に向かった。それは、毎週の事なのでこの外出を誰も不思議には思わない。
王子は馬車に乗り込むと大きなため息を吐いた。
その理由は、母親であるエマリア夫人とその兄であるライザルフ侯爵。それに、ライザルフ侯爵の軍師呼ばれる男性の三人だった。
元々、今回の内紛の原因を作ったのは王子側、正確にはライザルフ侯爵に軍師の企てが全てだった。
最初は王女に退いてもらうだけでよかったはずが、いつの間にか王女との戦争に発展し、それが原因で国が二つに割れた。
王子はなりたくもない旗印に押し上げられ、いつの間にか総大将に祭り上げられていた。
最初は王子側に勢いがあった。
その理由は夫人と侯爵に付き従う有力貴族達が多くおり、後方支援をもらっていたからである。有力貴族達は、こちら側が王権を取れば自分達にも旨味があると考え、助力していたのだ。だが、この一カ月で形勢は変わった。
有力貴族達が次々に離れ、もしくは王女側に寝返る始末。しかも、領地までを王女に引き渡す者まで出て来たのだ。
これには流石に夫人も侯爵を理解出来なかった。何とかこちら側に引き戻そうと試みようとしても、すでにその相手は国から退去、もしくは雲隠れにあっており、取り付く島もなかった。
そんなこんなで連日連夜、三人は会議を行ったが理由が分からない限り、答えを導き出す事は不可能であった。
そんな三人を傍目に、王子は屋敷を抜け出したのだった。
「ふぅ・・・・・・」
「王子、どうされました?」
窓際に肘を付き本日何度目かのため息を吐いた時、対面に座る娘に声をかけられた。
「すでに10回を超えるため息をおつきですが」
「ハハ。数えてたのか、ルリア」
「申し訳御座いません」
ルリアと呼ばれた女性は静かに頭を下げた。
このルリアは王子の身の回りの世話は勿論、警護も担当していた。
女官の衣服の下には小刀を携えており、常に周りを警戒していた。
「大丈夫だよ。さて、そろそろ着くかな?」
王子は車窓から外の景色に視線を投げる。しばらくすると、そこには大きな湖が見えてきた。
昔、前国王とティアナ王女、そしてティアナの母親と自分の母エマリアと何度も通った思い出の湖がである。
王子は馬車から降りると一人、湖のほとりまで歩いた。
ここに来ると昔の思い出が蘇るのだった。
みんなでここに来て釣りをしたり、たき火をして夜を過ごしたりと。
子供の頃の記憶がいくつも蘇る。
何故、こうなってしまったのか。
姉であるティアナと刃を交えなければならないのか。
色々な考えが王子の頭の中を駆け巡った。
「どうされましたか?」
ハッとなり声の聞こえてきた方に視線を投げた。同時に左手が剣の鍔にかかった。身体が反射的に臨戦態勢をとったのだ。
声をかけてきた男は即座に両手を上にあげた。
「驚かせたのなら申し訳ない。かなり深刻な顔をされていたので、つい」
言いながら男は手を下ろした。
「・・・・・・そんな顔をしておりましたか」
王子は、表向きは平然を装っていたが、背中に流れる汗は尋常でなかった。
狂気。
今、自分の眼前にいる男からはそれだけしか感じられなかった。数多くの修羅場を、血を浴びて来たであろう、その狂気。
普通の人ではないという事だけが、王子にはわかった。
そんな王子を余所に、男は懐からタバコを取り出すと口にくわえ、火をつけ煙を吐き出した。
「私の名前は川元悠弥と申します。貴方の姉上である、ティアナ王女に雇われた者です。以後、お見知りおきを」
不敵な笑みを顔に貼り付け、悠弥はゼスフィルドを見た。
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