虚言と駆け引き

 レルグナットともう一人の男性を馬に縛り付け、一行はその場を離れた。そして、近くの廃村に着くとレルグナットと男性を別々の小屋へと運び込んだ。

 悠弥はレルグナットを椅子に座らせると両腕と両足を椅子に縛り付けると、

 「皆、持っているお面を被れ。素性がばれると後々面倒だ」

 指示して悠弥は椅子に腰を下ろした。

 「それじゃ、始めるか」

 悠弥はいきなりレルグナットが座っている椅子を蹴り飛ばし、倒したのだった。

 「がっ!?」

 レルグナットは何が起きたのか理解出来ずにいた。とりあえず分かったのは両手両足が縛られているという事。あと、自分が倒れているとう事だけだった。

 「こ、ここは・・・・・・?」

 「こんにちわ、伯爵」

 声が聞こえてきた方に視線を向けると知らない顔がこちらを見下している。その周りには、動物の面を付けた者達が数名いるのも確認できた。そして、この者達が自分達を襲撃した連中であるというのも理解した。

 「き、貴様ら!! これは何のつもりだ!?」

 唾を飛ばしながらわめく。

 悠弥はわざとらしくため息を吐くとゆっくり立ち上がって、伯爵の腹に蹴りを入れたのである。

 「がはっ・・・・・・!!」

 胃液が口からこぼれた。

 「おい、自分の置かれている立場ってもんを理解しろよ? アンタの生殺与奪は俺らが握っている事、理解出来てないみたいだな?」

 言ってからもう一度蹴りを入れた。

 「ぐわっ!!」

 身体を痙攣させながらもレルグナットは今、自分の目の前に立つ男を睨んだ。その目にはまだ気力がある。

 悠弥は王女から返してもらった小太刀を鞘から抜き、伯爵の前に突き立てた。

 「俺はね、伯爵。手荒い真似はしたくないんだ。出来れば五体満足でお帰り頂きたいとさえ思っている」

 小太刀の刀身をゆっくりとレルグナットの首筋へ押し当てながら言うその口調は、抑揚がなく、淡々と発せられた。

 「お、俺に何をしろと言うんだ・・・・・・?」

 「意外に理解が早くて助かる。いや何、簡単な事だ。アンタが今義理立てしている人物を裏切ってもらえればいい」

 「な、なんだと!? ふざけるな!! そんな事出来るわけな・・・・・・!!」

 言いかけた所で悠弥は小太刀の柄を思い切りレルグナットの鼻に叩き付けた。

 「ぎゃあぁあああああ!!」

 鼻は折れ、血が溢れ出した。ついでに歯も何本か折れたらしく口からも血を流している。

 「出来るのか出来ないのか? 返答次第では次は目を突く」

 そう言って切っ先をレルグナットの目に突き付けたのだ。

 「ま、ままままま、待ってくれ!!」

 「時間が無くてな。残念だ」

 「わ、分かった!! あ、アンタの言う通りにする!!」

 寸でのところで切っ先は止まった。

 「それは助かる。いや、実はなさっきアンタと一緒に連れて来た男がいたんだが、これがなかなか頑固でな。血みどろになっても頑なに拒否してな。そう言えば、さっきの男はどうした?」

 近くに立つ猿の面を付けた人物に尋ねる。

 「他の納屋に閉じ込めて拷問にかけておりましたが、先程息絶えたと他の者から連絡がありました」

 「そうか・・・・・・」

 悠弥は少し考え、レルグナットを見た。

 「後学の為にどうなったか、見てみますか、伯爵?」

 「え?」

 「死体を持ってこい」

 「分かりました」

 犬の面を付けた者と虎の面を付けた者が返事して、小屋を出た。そして数分後、何かを抱えて戻ってきた。

 二人はそれをレルグナットの前に転がして見せた。

 「ヒッ・・・・・・!!」

 それは見るも無残な惨殺死体だった。

 顔の原型も残らない位に叩きつぶされ、血みどろになっていた。

 レルグナットは込み上げて来る嘔吐感を何とかこらえた。

 「やれやれ。ウチの者達はどうやら加減という者を知らないみたいだな」

 ため息を吐きながら悠弥が言う。

 「伯爵をこっちの小屋に入れておいて良かった。それで伯爵、話しを戻すが・・・・・・」

 「な、何をすればいい!? 何でもするから!!」

 「では、とりあえず、この紙にこう書いて頂こう。私、レルグナットは今回の作戦の責任を取り、辞任すると同時に、領地も全て手放す事とする。尚、領地の件は、ティアラ王女へとお返しする」

 「な!? 王女にだと!?」

 「伯爵。何でもするんだろう? それとも何か? この惨殺遺体と一緒にここにうめてやろうか?」 

 レルグナットは顔を白黒させながらも、この条件を呑んだ。

 何とか書面を書き上げると、レルグナットはそれを悠弥に差し出した。

 「確かに。じゃ、アンタには用は無い。眠れ」

 言って悠弥はレルグナットの腹部に蹴りを入れ、気絶させたのだった。

 そして再び馬に結び付け、走らせたのだった。

 「ちゃんと帰れますかね?」

 「そんな事どうでもいい事だ。それより」

 悠弥は小屋の中の惨殺死体に目を向け、

 「もういいぞ、ディレック」

 すると死体は目を開け勢い良く立ち上がったのである。それと同時に他の者達が水を小屋に運び込んで手ぬぐいを手渡す。

 ディレックと呼ばれた男は顔に付いた血糊を拭き取った。

 「いやぁ、意外に効果的な手段でしたね。ユーヤさん」

 「だろ?」

 悠弥はタバコに火を付けて煙を吐き出した。

 「それじゃ、フィリス、オルガ」

 「はい」

 「これを城へ届けてくれ」

 「かしこまりました」

 「よし。それじゃ諸君。最初の作戦は成功だ。次の作戦に移るぞ」

 「おう!!」

 

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