the.first action②

 オルガとフィリスを引き連れて、悠弥は自分達の隠れ家へと戻った。

 この数週間で、悠弥は部隊を情報収集専門の者達と実行部隊専門の者達に分け、相手側の行動パターンから人間関係までを徹底的に調べ上げた。この中心にいたのは、実行部隊を指揮するドルディオスと情報収集専門のアンリである。

 二人は悠弥が作戦を立案し易い様に様々な情報を提供した。

 悠弥はそれらの情報を寝る間も惜しんで精査し、二人に落としていった。そして、この日作戦が実行に移される事になった。

 作戦は何てことない内容のものであった。

 相手側の補給部隊を叩く。

 それだけの事だった。

 「ユーヤさん。補給部隊を襲撃したあとはどうするんです?」

 「別に何もしない。俺の目的は襲撃する事じゃないんだ」

 この言葉に全員、理解が出来なかった。

 勿論、悠弥も理解出来ないだろうと分かっていた。

 「目的は補給部隊の隊長を捕らえる事。そして、やる気を失わせる事だ」

 「出来るんですか?」

 「その為に今日まで色々と情報収集したんだ。大丈夫、上手くいく」

 言って悠弥は立ち上がった。

 「さぁ、それじゃ諸君。俺達の初陣と行こうじゃないか」

 「おう!!」

 勇ましく返事をし、十人は悠弥の後に従った。

 補給部隊は毎月二回、同じ経路で同じ時間を通っている。

 部隊を率いるのはレルグナット伯爵という四十代前半の男性である。

 相手側の筆頭侯爵であるライザルフ侯爵の頭脳と呼ばれる人物でかなりの切れ者であり、腕の立つ人物である。

 そんな人物が補給部隊の隊長を務めるのだから、部隊の者達もそれなりに腕の立つ者達で形成されていた。それが分かっていたので、王女の部隊も簡単には手を出せなかったのだ。そんな者達をたった十人で襲撃しようと悠弥は考えたのだ。勿論、正面から正攻法でいっても勝機はないのは分かっている。そこで、

 「コレを使って部隊の攻撃力を削ぐ」

 襲撃場所に着いた早々、悠弥は準備していた、岩を叩いた。

 「つまりこれを幾つか落として・・・・・・」

 「そういう事。いいか。俺らは今勝つ事だけを考えればいい。正面からの攻撃や、一対一の立ち合いは一切必要ない。如何に効率良く相手を完膚なきまで叩けるか。また反撃する気力もない位に打ち負かすか。その為に手段は選ばない。どんな手を使ってでも相手を徹底的に潰す。それだけだ」

 その口調には冷酷さしかなかった。

 「さぁ、来たぞ。俺が合図したら全部落とせ」

 「は、はい!!」

 悠弥は崖ギリギリの淵に立ち右手を大きく振り上げ、

 「今だ!!」

 声を発すると同時に勢い良く振り下ろした。

 それと同時に数個の岩が下り落ちていく。

 その音に気付き、補給部隊が顔を上げた時には、それらはすでに眼前まで迫っていたのだ。

 崖下からは馬の鳴き声や兵士達の叫び声が聞こえてくる。

 何とか部隊を立て直そうとする声が聞こえて来る。だが、その声は兵士達には聞えなかった。

 その瞬間を悠弥は見逃さなかった。

 「それじゃ、奴らを蹴散らすとしますか」

 言うと悠弥は崖を走って降りて行った。それに続くように『闇舞』の面々も降りて行く。そして部隊の中央に滑り込むと一気に襲い掛かったのである。

 部隊の者達は何が起きたか分からなかった。岩が落ちてきたと思った次の瞬間には、人間が現れたのである。

 基本、統率の取れている部隊は、こういう状態が起きても体制を直ぐに立て直せるものだが、この時はそうはいかなかった。なぜならば全員、パニック状態に陥ったからだった。

 結果は火を見るよりも明らかな物だった。

 『闇舞』の人数よりも倍以上はいた部隊をいとも簡単に仕留めたのである。

 「よし!! 全員、殺ったな!? 部隊長とそこの男だけを捕らえたらあとは転がしておけ!! 行くぞ!!」

 事が済むと全員その場から即座に撤退した。

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