2 父親たちの会議
シオンが手慣れた様子で紐を引き、天井から吊るされた『魔法使いの国』の地図を下ろした。
コネリウスが指を差して、一行に示す。
「現在、ライト家は三手に別れ、王都を目指しておる。
クロシュカ・シニアは、腕を組んでうなづく。
次に、ココが地図を指した。
「ポルクス船団の動きをおさらいする。我々は、グネヴィア領の海層突破点に停泊中、ヴェロニカ皇女と次期お妃を保護、『魔の海』へ送り届けた。その後、海の底でコネリウス殿を待つ手はず……だったんだが……」
針のような細い瞳孔が、シオンを見た。
「船長には、道中でおれとクロシュカさんを拾っていただいたんです」
「ココは深海を行っていたんだろう? どうやって」
「これがビックリ! 『三邪神同盟』の船に、この二人は乗っていたのさ! 」
ココが翼を広げて言った。『三邪神同盟』の単語に、コネリウスは身をのけぞらせ、シニアは眉間の皺をもっと深くし、シオンは苦笑、ジュニアはそんな周囲の反応を見て首をかしげていた。
「……『三邪神同盟』は、なんと? 」
コネリウスが恐る恐る尋ねる。
質問には、シオンが応えた。
「『大いなる悪知恵』のロキ様、『這いよる混沌』のニャル様、そして、う……『麗しき裸体を愛する神』たるディオニュソス様によりますと、」
「なんだそのふざけた尊称は? 」
「……ご本人様たちの希望です。三邪神同盟の御三方によりますれば、『第十八海層の試練は我々が担当だから頑張ってね! 期待してるから! 』……だそうです」
シオンは気まずそうに首を縮める。
ココが言った。
「あのときゃ肝が冷えたぜ。えらく大きい派手なピンクの船が近づいてくると思ったら、乗っていらしたのは、かの神々だ」
「ですがロキロキ殿たちは、吾輩に語ったところによると、まことに人類の繁栄を望んでいらした! それは確かでござりまするぞ! 」
「しかし、あの神々が言う『人類が滅ぶと困る』は、『お気に入りのおもちゃが捨てられるのは困る』というような理由だろう」
「クハハ」コネリウスが笑った。「その御三方からの
「…………」
シニアは、左右の眉毛を、シーソーのように上下させながら黙り込んでいる。
「神々は気まぐれに我らを試すのさ。……さて、そうしてこの二人を受け取って、この海層突破点の真上に息を潜めた。
そこで、つい昨日の朝のことだ。各地に散らせたウチの船団の手勢から、驚くニュースが飛び込んできた」
ココが、地図中央あたりを指す。
「ミネルヴァ領のウルラ湖沿岸にて、大規模な山火事が発生した。情報によれば付け火で、学生たちから下手人は魔人ではないか、という話が出ているらしい。城の窓から見えたんだそうだ」
シニアの耳がピクリとする。「……ほう? 魔人か」
「ウルラ湖には、ここと同じく海層突破点がある。この国にある三つの特異点のうち、最初に封鎖されたあそこだな。真っ昼間、山火事を背にしたウルラ湖に、おそらくその封鎖されているはずの海層突破点を通過して、『炎の魔人』と『青い亡霊』が出たそうだ」
「『炎の魔人』に、『青い亡霊』? まるで怪談話のようで」
興味深げにジュニアが鉄仮面ごしの顎を撫でる。
コネリウスが訊ねた。
「魔女は湖の封鎖も解いたのか? 」
「おれが存じ上げているのは、このサマンサ領沖だけだ」
ココが肩をすくめる。「そして、『魔人』と『亡霊』は交戦。のち、『魔人』は南へ消えた。――――『赤い鷹』をともなって」
ハッ、とさしものコネリウスも顔を固くした。
「『赤い鷹』は、ヴァイオレット……。それと『炎の魔人』とは――――アルヴィンか! クロシュカ! 」
「アルヴィンじゃろうよ。アルヴィン・アトラスには、ヴァイオレットの護衛を申し付けた」
「そうか、鷹は……南に……王都アリスへ飛んだか……! ココよ、それはいつ頃の話だ」
「ウルラ湖に火が出たのは、四日前ときく」
「四日前……はて、どうなるか――――」
コネリウスが眉間を抑えて首を振ると、動揺を察してか、ミイがキャンキャンと悲壮的に鳴いた。コネリウスはそれを抱き上げ撫でてやる。
「お前も心配しとるのか? 」
「わふん」
「心配するともさ」
ココが翼を伸ばし、項垂れるコネリウスの肩を叩いた。
「しかしだな、おれも『選ばれしもの』とやらを信じてやろうともさ。あいつらはよ、おれたちの息子じゃねぇか」
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