15-2 西の果て

 戦況は悪化している。伝えられる情報が、空母を撃沈しただの、敵の軍事基地を破壊しただの、敵の被害は甚大、こちらは軽微と強調していたところで、内地から送られてくる兵を見れば、一目瞭然だ。


 まだ十代になったばかりに見える、細く青白い顔をした少年ばかりが、満足な訓練も受けないまま、次々と送り込まれてくる。本土では地震があったとも聞いた。主だった軍需工場は倒壊したか、敵の空襲で破壊された。工場では子供や女性が働いているという。男はもう消えてしまったようだと。


 手紙は検閲され、「〇〇〇帰ってください」と黒塗りされた部分ばかり。〈生きて〉が消されたのだ。こんな小細工に手間をかけるくらいなら、食糧の補給に力を注いでほしい。日に日に飢えていく兵士たち。敵国はパラシュートで補給物資を届けている。五色に分けられたパラシュート。空に花が咲いたように見える。


 僕らが野草を採るのに必死になっている中で、敵国はコーヒーを飲み、お菓子を食べる。曲を流し、基地ではダンスをしているという。どこまで本当なのか。どれもが本当だと思えるくらいだから戦力の差は歴然だ。


 第十五軍では、スンダランド各地の病院に入院している者を調査して、片腕を失っている者や、熱病が完治していない者まで無理やり退院させて、前線部隊の兵員補充にあたっている。


 僕の怪我はすっかり回復した。耳鳴りがして、変な笑い声が頭に響いたりするが、問題ない。もう、書くこともなくなったところだったので、ちょうどいいタイミングだと思う。


 僕も明日にはここを発つ。西にあるヘスペリスに向かう。すっかり軍服もぼろぼろになってしまったし、靴はジャングルで採ったつるを巻いて剥がれかけた底を補強して使っているが、道中、他の兵士から奪えばいいと聞いた。


 もう、奪われたあとかもしれない。ここには盗人ばかりいるから。戦争で死ぬということに、僕は華々しい英雄像を思い描いていた。そうやって死ねるならと、どこかで憧れていた。


 でも、現実の戦場は飢えと病ばかりだった。爆弾を抱えて、戦車に突撃する兵もいるが、それは小柄な少年兵がやっていた。彼らの方が動きやすいかららしい。戦地によっても違うのだろうか。スンダランドは奥地に進軍したかと思えば、そこで飢えに苦しみ、兵が死んでいっている。


 ヘスペリスも西の果てにあるという。僕らは送られる。そんな場所へ。 

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