5-3 物置
バザーが終わり、僕は教会の敷地内にある物置に大量に出した椅子や机をひとりで片付けていた。神父はまだ地元の有力者との会話に忙しい。ハンナも同じように住人の相手や相談に乗っていて、せいぜい食器を重ねてテーブルの隅に寄せるくらいで手が回らなかった。
奉仕活動に積極的なご婦人連中が手伝ってはくれるものの僕相手だとどうも気ごちない。体が接触するのを嫌がっているのが口に出さなくても態度で分かる。
僕が教会に住み着いているのをよく思わない住人は多い。誰も叔父のことを忘れてなどいないのだ。いつ僕に症状が現れるか、びくびくしながらも好奇の目を向けてくる。僕はなるべく一人でやれる仕事を率先してこなしていった。
広めの物置はレンガ造りで時代がかった古風な造りで、中は湿っぽくひんやりしていた。ほこりでくすんでいる窓から入る夕暮れ時の燃えるような陽ざしが部屋を染め、押し込められた家具やガラクタたちの長い影を壁のあちこちに作っていた。
喉に絡みつくようなこもった臭いをあまり吸い込まないようにしながら、僕は部屋の奥に椅子を何脚も重ねていた。なるべく天井近くまで積み上げ、まだ残っている机やテントなどの道具をしまうスペースを空けようと苦心する。
すると換気も兼ねて大きく開け放していた木戸をどんどんと遠慮なく叩く音がした。集中して作業をしていた僕はびっくりして跳びあがってしまった。振り返るとソレイユが立っていた。
「あなた、もう秘密基地には来ないつもり?」
ソレイユはさっき見かけたときとは違う格好をしていた。まとめていた髪は肩におろしていたし、服もゆるめの丈の長いワンピースを着ている。太陽がまぶしいのか、片手を目にかざして、少しにらむような顔だ。
ソレイユが現れたことに戸惑った。嬉しくなかったわけじゃない。でも同時に惨めさも覚えた。何を話せばいいのか分からなかった。さっきの光景が思い浮かび、胃が痛くなってきて苦しかった。
「ルギウス?」
僕の口から出た音は、あくびみたいな間延びした音だった。咳き込んでごまかすが、恥ずかしさで顔が熱くなる。何をしても失敗しそうで、ソレイユにはいなくなってほしかった。
けれど彼女は僕に近づいてくると「無視するつもり?」と言って、口を尖らせた。間近で見る彼女は痩せたのだろうか――顎が細く見え、全体的に小さくなったようだった。それでも見上げてくる瞳は、僕のよく知っている輝きを見せる。
「もう、いかない……、あそこには」
顔を背けて僕は言った。
「忙しいし、子供じみてるだろ」
ソレイユは大げさすぎるほど大きなため息をつくと、肩をすくめ腰に手を当てた。ややふんぞり返っている。
「そう、来ないの。じゃ、片付けちゃうから。そのままは嫌だし」
「うん。やっといてくれる?」
「あなたがそうしてほしいなら」
挑むような口調にたじろぐ。彼女は不機嫌になっていた。
「そうしてくれたら、うれしいけど……、無理にとは――」
「無理じゃないわ、手伝ってもらうから」
脳裏に、あのひょろい男が浮かんだ。
「仲がいいの?」
「え?」
「あの……、昼間いっしょにいた人。となりに」
「いつ? となりっていつの話よ」
僕はあいつの名前なんて知らないし、だからと言って「あのひょろ長い奴」と言ってもいいものかどうか分からなかった。万が一にもソレイユのいい人だったりしたら困る。面倒はごめんだった。
「あー……、なんでもない」
僕は言葉を濁すと、彼女に背を向けて片付けに戻った。ソレイユは手伝うわけでもなく、戸口に寄りかかって人が働くのを黙ってみていた。
「あなた、真面目にやってるのよね?」
「どういう意味さ」
僕は数脚に重ねた椅子の下敷きになろうとしているところだった。必死に肩で支えながら、手で元の位置に戻そうとしているのだが、この苦労もソレイユには催し物くらいにしか見えないのだろう。ものすごく助けてほしい状況だったが、頑張ってひとりで対処した。椅子は元の位置に戻り、崩れかけたバランスは再び安定する。絶妙な技に我ながら惚れ惚れする。
「真面目に生活してるのよねってこと。遊んでないんでしょ」
「あのさ、今見てただろう。遊んでるように見える?」
ソレイユはむっとして黙り込んでしまった。僕には彼女の言いたいことの半分も理解できなかった。時間が流れ、机を引きずって押し込むと片付けは終了した。
「片付け、手伝ってよ」
ソレイユが言った。まだいたのか、と言いそうになって飲み込む。彼女は不機嫌な顔をして自分の足先をにらんでいた。
「片付け。秘密基地の」
僕は腕に付いたほこりを払いながら、何気ない調子で答えた。
「いいよ」
心は跳ねていた。あのひょろ男に勝った気がしたから。
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