101.魔王の特攻
各地の戦場では、戦線にいた魔物たちが離脱を開始する。
すでに魔物たちは、半壊以上の大打撃をこうむっており、これ以上の抗戦は困難であった。
魔神軍師の命もあり、強固として抗戦を唱えていた魔王たちも、撤退を余儀なくされていた。
そしてこの光景に、人々は歓喜の声を上げる。
「勝った・・・・・・勝ったぞ!!」
退いていく魔物たちを見て、兵士たちは喜びを露わにする。
喜ぶ皆の間には、同時に安堵の色もあった。
魔物からの侵略を阻み、同時に人々を魔の手から救ったのだ。
仲間や家族・恋人などもいよう人間の兵士たちは、この戦いの勝利に安堵と喜びを露わにしていた。
「――以上が、魔神軍師からの指示です。トニトルス様、退却を!」
南方諸国家たちの連合軍と戦う、ラクスナードブルク平原の魔王の元へも、また魔神軍師からの命令は届いていた。
彼ら魔物を率いるのは、竜人型の魔王であるトニトルスである。
かつてセルピエンテを滅ぼす際に先鋒として戦った魔王は、その伝令を聞き、目つきを鋭くしながら、敵のいる戦場を見た。
「ここまでやられて、退却だと?」
静かに言って、言うその目には鋭い光が宿る。
「ここまで味方がやられていて、大人しく下がれと、そういうことか?」
「し、しかし伝令によればそういうことでして・・・・・・」
「構うものか」
そう言った直後、突然空間が圧縮する。
直後、伝令を務めていた魔物は押しつぶされ、木っ端微塵に砕け散る。
その凶行に、周りの魔物たちはぎょっとする。
一方で、トニトルス本人はまったく構うことも後悔することもなく、周りに淡々と指示を出す。
「全軍、突撃するぞ。最後の一体になるまで、人間を殺し尽くせ」
「・・・・・・は、ははっ!」
命令に、周りの魔物たちはおとなしく従う。
もし逆らえばどうなるか、彼らは分かっている。
上にいる魔神軍師の命令よりも、今は目の前の脅威の命令に従うほかなく、魔物たちは決死の特攻を受け入れさせられるのだった。
「これは・・・・・・勝った、よね?」
殲滅される魔物の群れを見て、サージェがそう尋ねた。
現在、魔物の大半は集中砲火を受けて壊滅している。
彼らは、退いたら殺されると命令されていたために、退くことも出来ずに続々と死地へ飛び込んできた。
それは、背後に控えていた魔物たちも同様だ。
その結果、魔物たちは被害を余計に拡大させ、その大半が戦死するという悲惨な末路を辿っていった。
「まだ油断はするな。敵は残っている。こちらに活路を求めてやってくるとも限らない」
サージェの確認に、シグはそう注意をする。
暗に油断するなと言う彼に、サージェは頷く。
敵の完全撤退まで注意を怠るな、という彼の考えは全うで、実際に油断するつもりはないが、それでも胸にしまっておくべきことであった。
そんな中で、ふと上空を、空からの魔物が迫っていた。
地上からの攻撃ではなく、上空から攻撃しようとして活路を見いだそうとしたのかもしれない。
だが、それに兵士たちは冷静だった。
一部の機関銃の銃口は、すぐに空の魔物へ向けられ、一斉に発射される。
それを受けて、空の魔物は一部撃墜されるが、しかし敵も、単純に空から来たわけではなかった。
空を飛んできた魔物たちは、そこから左右に広がる人間たちの中へ降りていく。
ほとんどが弓矢や銃で迎撃される中、それでも少数は、兵士の真っ只中へ大胆に着地した。
「厄介な兵器を使ってくれたな・・・・・・だが、流石に味方のいる場へは撃てまい!」
そう言って、一部の魔物は暴れ出す。
彼らは、最後の特攻を仕掛ける気なのか、一気に本陣に向けて駆け出す。
魔物の一部が道を開いて犠牲となり、また一部が反撃に討たれる中、それでも強力な個体は、本陣へ近づいていく。
それを見て、シグは目を細めた。
「サージェ。エヴィーたちを呼んできてくれ。その後、援護を頼む」
「わ、分かった。ガンバってね、シグ!」
言って、サージェはその場を素早く離脱する。
それを見送り、シグは逆に魔物たちに向かって突進していく。
攻めきた魔物たちは、皆すべて半分が人間の竜、竜人である。
そんな竜兵に対し、シグは恐れて道を空ける兵士の真っ只中へ飛び込み、立ち塞がった。
そして、戦闘を進む竜の魔物と相対する。
鋭い爪で斬りかかってくる相手に、シグはそれを攻撃にいくようなそぶりの後、すぐさま退いて躱し、次いで返す刃を叩きつける。
鋭い斬撃に、その竜人は切り裂かれ、もんどり打って倒れる。
彼が瞬く間に竜人を一体仕留めると、それを見た竜人たちは勢いを止める。
そして、中から一体、強烈な威圧感を持つ個体が姿を見せた。
「ふっ! 強そうなのがいるな!」
そう言って、現われた竜人の魔王に、シグは剣を構える。
それに対し、魔王はすぐには構えない。
「貴様、名は何だ?」
いきなり問いただされ、シグは不審な顔をする。
不意打ちなどに警戒しつつ、彼は口を開いた。
「シグだ」
「そうか。我は、トニトルスという」
律儀に名乗り返すと、ようやく魔王は構える。
「悪いが、こちらの最後の意地だ。付き合ってもらうぞ、人間」
「・・・・・・あぁ。分かった」
どこか戦士然としたその相手に、シグは鼻を鳴らす。
同時に、半ば確信できたのは、こいつがおそらくはこの軍団を率いている者であり、こいつを倒せばおそらく終戦になるだろうということだ。
いわば、これは詰めの決闘――最後の大仕上げともいえる。
こうして、戦いの幕を閉じる、最後の決闘が開始されるのだった。
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