本戦開始――――――――――――――――――――――――――――――――
95.地中侵攻
勝敗の鍵を握るといえる、光弾レイニー機関銃は、主に前衛に配置されっている。
その元へシグは向かうと、最前線で戦うハマーやビアリの元に合流し、機関銃の発射準備に入る。
そんな中、ついに射程圏内に入った竜兵から、上空より攻撃が開始された。
彼らは天高くから、竜の口内より炎の弾丸を吐き出してくる。
が、それが兵士に到達することはなかった。
それより先に、前線に配置されていた魔術士部隊が、障壁を展開して火竜弾を防ぐ。空中で爆散した炎弾は、宙で四散し火の粉が地面に落ちるが、それが兵士にダメージを与えることはない。
その爆撃の合間に、シグたちは応じる。
「機関銃、斉射!!」
シグたちの号令に、機関銃は発射される。
弾丸の雨は天を穿ち、そして竜の巨大な体躯まで到達する。
そして、体躯を蜂の巣にされた魔竜たちは、続々と地面へ、兵士たちの眼前へと墜落していった。
「撃墜、順調です!」
ドシン、ドシンと竜兵たちが次々と撃墜されるのを見て、兵士たちは猛る。
一見強力な敵を、見事返り討ちにしていくことに、彼らの士気は嫌が応にも高まっていく。
しかしそんな中で、シグは不審を抱いていた。
敵の攻撃が、妙に緩いと感じたのだ。
もう少し攻めてきてもおかしくないはず、そう考えたシグは、敵の策や搦め手の攻撃に警戒する。
「全軍。敵の奇襲攻撃に警戒するように。攻勢が緩い。何か、待っているかもしれない」
「・・・・・・・はっ。伝えてきます!」
シグがそう警告を兵士越しに伝えようとする中、であった。
突然、斜め前方から爆発音が鳴り響いた。
見ると、何もなかった地面が爆発したのである。
それを見て、兵士たちは不審がる。
「な、なんでしょうか?」
「・・・・・・あそこは、確か」
シグは、その音に何があったのかを思い出す。
その辺りには、敵が攻めてきた時に備え、練想術士による兵器が埋もれているはずだった。
地雷、と呼ばれるもので、練想術士の合図か、あるいは強烈な衝撃を与えると爆発する爆弾らしい。
敵の接近に備えて埋められたそれは、しかし地中深くに埋めたそうなので、よほどの衝撃がない限り爆発しないはずである。
その現象に、多くが首を傾げる中、聡いシグは察した。
「なるほど、地中からか・・・・・・。伝令兵、全部隊に伝令を! 地中から攻めてくる敵がいるようだと伝えろ!」
「は? それは、本当ですか?!」
シグの言葉が、よほど意表をつくものだったためか、兵士は尋ね返す。
一方で、シグは言った。
「いいから伝えろ!」
「は・・・・・・ははっ!」
シグの指示を受け、兵士は動き出す。
一方、シグもまた場所を移す必要があった。
「一旦、ここを離れる! 指示は各部隊長に任せるが、よいな!」
「はっ!」
そう言って、シグは自らも伝令となって、先ほど来た道を戻り始めた。
彼が戻ってきたことに、サージェもエヴィエニスもかなり驚いた様子だった。
すぐに出迎えると、その直後に尋ねてくる。
「どうしたのです? 戦いはまだ――」
「伝令がまだついていないなら知らせる。地中から、敵が来るかも知れない」
そう言うと、シグは先ほど起きた現象について説明する。それを聞き、エヴィエニスたちも納得した。
「なるほど・・・・・・。確かに、その可能性はありますね。地中なら、我らの探知も掻い潜れますし」
「いつ来るか分からない。全員、警戒を――」
そう言って、最大限の警戒を行なおうとした、矢先であった。
突然斜め背後の方向で、兵士の悲鳴と苦悶が響き、血まみれになって倒れ出したのだ。
その様子に、シグの周囲の兵士たちはぎょっとするが、シグたちはすぐに状況を察する。
倒れた兵士の足下には、巨大な穴が掘り起こされていた。
「ケケケ! 作戦成功だ!」
「人間どもよ、震えて眠れ! 我らは――」
魔物たちは、そう言って何か言い誇ろうとしたようだ。
だが、その機会をシグは与えなかった。
彼は一気に接近すると、魔物を切り伏せる。
外見はモグラに似たその魔物たちは、斬撃に一斉に倒れ、バラバラに吹っ飛んだ。
その攻撃の速さに、周りの兵士たちは却って驚く。
「全員、地中と空からの攻撃に警戒! おそらくここで敵は猛攻を仕掛けてくる! まずは耐えろ!!」
シグの指示に、兵士たちは頷く。
一瞬乱れ駆けた連携は、しかしシグの迅速な判断と行動で繕い直った。
その見事な手際に、練想術士の一人が口笛を吹く。
スコットだ。
彼は、指示に奔走するため戻ってくる彼に、声をかける。
「ははっ。頼もしい限りだな。まるで、ロミアさんを見ているみたいだ」
「・・・・・・そういう軽口は後で聞きます。貴方も警戒を」
「はいはい。了解」
いつものような軽口を叩き返さずに言うシグに、スコットは頷いてこの場を離れる。
一方で、シグの目には鋭い光が宿っている。
そこには、もう誰も仲間を失わないという、強い覚悟が滲んでいた。
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