第6章
前哨戦―――――――――――――――――――――――――――――――――
91.愚者に機関銃
大大陸の各地では、人類と魔物戦いが幕を開いている。
その一角であるリドニーク帝国西方の戦場では、丘陵地帯に設けられた防塁へ、魔物たちが押し寄せていた。
「来たか。ふんっ、学習能力のない奴らめ!」
魔物の接近に、小太りの軍人将校は鼻を鳴らす。
防塁の上で構えられた銃口が、魔物たちに向けられ、そして一気に火を噴く。
次々と射出される弾丸は、魔物の群れに襲いかかり、彼らを蹂躙してばたばたと倒していった。
が、魔物たちは怯まない。
連射できない銃の射間を狙い。彼らは一気に距離を詰めようとする。
続々と、魔物たちは防塁に向け押し寄せようとした。
しかし、
「馬鹿め! 我らが単発式の銃しか持っていないと思ったか! 今だ! 機関銃をぶつけてやれ!」
軍人将校の命令で、機関銃が発射を開始する。
連続で弾丸を吐き出せる、光魔弾レイニー機関銃の連続斉射により、防塁に近づきつつあった魔物たちは蹂躙され、一掃された。
「はははははは! 見ろ! 魔物がゴミ虫のように蹴散らされたぞ!」
「この兵器、流石の威力ですな!」
魔物たちがばたばたと倒れていく様に、兵士たちは歓声をあげる。
「うむ。魔物たちにこれだけの威力があるのだ。これは、きっと戦争において革新的な兵器となろう。魔物たちを駆逐した暁には、是非量産しておきたいものだ」
将校は、声に笑いを含みながら言う。
その言葉は、きっとセルピエンテの人間が聞けば激怒するだろう内容だ。
機関銃は、そもそも魔物との戦いに備えて与えられたものだ。
彼らはその意味をすっかり忘れ、すでにそれを同族との戦いにも利用しようと考え始めている。
その危険な考えに、兵士たちは同調する。
「なるほど。この兵器をインシェーニやポリスピアの連中より先に量産化させることで、戦争を優位に進めるのですね?」
「左様。あの憎き者たちにも、これは渡っている。奴らより先にこれを大量生産しなければ、逆に我らが危ういからな!」
そう言って、軍人たちは笑い合う。
やはり、その内容はセルピエンテの者が聞いたらただではすまない内容だ。
ただ、彼らがそのことに配慮する様子はない。
「今は、帝王の命令で共闘してやっているが、奴らとは本来宿敵だ! いずれ魔物を駆逐したら――」
「ほ、報告! 敵が襲来し、北の基地を攻撃中です!」
将校のさらなる暴言を、遮ったのは使者として赴いた兵士の声だった、
その報告が意表をつくものだったのか、その場の軍人たちは一斉に目を剥く。
「なに?! あそこを攻撃しただと! どういうことだ?!」
「ど、どうやらこちらへの特攻は陽動だった模様です! 敵の精鋭が、密かに基地を襲い、基地は壊滅寸前です! 急ぎ撤退を――」
「いや、必要はあるまい」
一瞬慌てた軍人将校だが、次の瞬間、すでに何か妙案でも思いついた様子で笑っていた。
「こちらには、この機関銃がある。これを使えば、魔物の精鋭といえども撃滅できよう」
「なるほど! 確かにこれならば――」
「し、しかし、基地の兵士たちはとにかく撤退してくれと――」
「やかましい! いくぞ、基地の救援と奪還に!」
使者の軍人が言葉を紡ぐのを遮り、将校はそう方針を決めるのだった。
「死ね、魔物ども! 人間の力を味わうのだ!」
連呼する銃声は、瞬く間に魔物たちを蹂躙していく。
機関銃を持った一団が辿り着いた時には、基地はすでに陥落していた。同時に大量の魔物たちがそこに押し寄せており、勝利の咆哮をあげていたが、小勢である将校たちは、しかしそれに構わず奪還を開始していた。
押し寄せる魔物たちに、機関銃はその脅威を発揮し、一気に蹂躙を始める。
「はははは! 魔物どもめ、手も足も出まい!」
正面から続々と押し寄せる魔物たちを、兵士たちは銃撃で圧倒する。
光の弾丸と銃弾の雨に、兵士たちは自分たちが余裕で基地を奪還できる――そう高をくくっていた。
そんな中である。
「よしっ、このまま敵を――」
「図に乗るな、人間」
拳を握り、魔物を殲滅しようとしていた軍人将校の上に、影が降りる。
そして、彼らがぎょっと上を向いた瞬間、衝撃と破砕音が響き渡った。
どこからか接近していた魔物の一体が、不意に彼らを急襲したのである。コウモリのような黒い翼を持つその一体は、降り立つやいなや、指示を出していた小太りの軍人将校を血だるまにする。
いきなり現われ、突然指揮官を襲った魔物に、兵士たちは反応が遅れるとともに、自分たちの失態を思い知ることになる。
機関銃の威力を過信した彼らは、機関銃の背後に密集するような陣形を取っていたため、急に出現した魔物に反撃出来ない状況だったのである。
その直後、魔物は暴れだす。
そして、基地を奪還しようとした兵士たちは、瞬く間に返り討ちの憂き目に遭うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます