89.大国五者会議
「――皆様。本日は、呼びかけに応じてくださり、ありがとうございます」
開口一番に、リーグはそう感謝の声をあげて、頭を下げる。
「また、共同会談のための中継塔の設置も許可くださり、感謝します。おかげで、このように会談を行なう事が可能になりました」
そうやって、謝辞を口にするリーグだが、目の前に相手は誰もいない。
一見すれば、彼は一体何をしているのだ、と言う光景だ。
彼の前にあるのは、机の上に水晶玉があるだけであった。
その、無人の空間への言葉に、しかし反応があった。
「おいおい。本当に水晶玉が喋りやがった。驚いたぜ」
返ってきたのは、野太い男の声だった。
やけに威厳、あるいは威圧を感じられるその声は、それだけで何か大きな集団を率いる風格があった。
「まったくじゃ。初め聞いた時は、世迷い言じゃと思ったが、まさか本当に通じるとはな」
続いて、老人の声が返ってくる。
しわがれているが、こちらは置いてますます盛ん、くわえて勇猛そうな響きがある。
「世にも不思議なことがあるものですね。しかし、こんな技術をお持ちとは、流石は文明大国セルピエンテの技術者といったところかしら」
続いて返ってきたのは、女性の声だ。
こちらは聡明でしたたかな雰囲気があり、妙齢の美女を想起させる声だった。
その、声だけで人物の雰囲気が分かるというのは面白いものだ。
それだけ、相手は皆個性がある人物ということでもあった。
もったいぶらずに言えば、この会話に参加しているのは、大大陸が誇る三大国の首脳たちである。
それが、今回リーグ王子の呼びかけに応じ、交渉のテーブルについていたのだ。
テーブルに着いたというより、要求に応じたと言うのが正確か。
彼らは旧セルピエンテの勢力から、「自国にいたままでいいから、通信会議に応じてほしい」という要請を受け、通信会議とは何かと思いながらも、自国にいたまま会談が行えるということで、一応は要求に応じていたのだ。
それを受け、セルピエンテの技術者たちは、各国の各地に通信に必要な中継の通信の塔を設置させてもらった。
通信の仕組みは、魔道士が本来短距離感で使う魔導通信を、塔を経由するということで広範囲に及ぼすというものであったが、その具体的なメカニズムは、よほど専門的な技術を学んでいるものでなければ理解できないものだ。
そのため、この際詳細の説明は省くが、要するに遠距離間の通信を可能にすることによって、各国の首脳を繋いだということだった。
その手腕に、各国首脳は驚嘆している。
「お褒めいただき、光栄です。我が臣下たちも鼻が高いことでしょう」
「・・・・・・なぁ、リーグ王子。一つ提案があるんだが」
「はい、なんでしょう?」
男がおもむろに口を開くと、リーグは尋ねる。
「この技術、俺らに売ってくれ。かなり魅力的な技術だと思うからな」
「はぁ。それは別に構いませんが・・・・・・」
「いけませんぞ、リーグ王子。この男の口車に乗っては」
男の提案に、老人がリーグをたしなめる。
「この男のことじゃ。どうせこの技術を戦争に悪用するに決まっておる」
「ほう、よく分かっているな、ジジイ。そうだよ、てめぇらの国滅ぼすための良い材料だろうからな」
「ふん。隠そうとしないとは、相変わらず野蛮じゃのう。これだから貴様話すのは嫌なのじゃ」
「直接話すのは初めてだろうが。偉ぶってんじゃねぇよ」
「お二人とも。その辺になさってはどうです?」
何やら言い争いを始めた二人を、女性が止める。
「この場は、せっかくリーグ王子が取りなしてくれたのです。今は、その話し合いを行なうべきではございませんか?」
「うるせぇ、黙っていろ女狐。どうせてめぇも平和主義面かましておいて、リーグ王子から根こそぎ技術を奪っていく魂胆だろうが」
「じゃな。ある意味、この男よりも一番危険な考え方をするのはお主じゃからのう」
「おほほ。人聞きの悪い。私がそのようなことをするような危険な者だとでも?」
「事実だろうが」
「事実じゃな」
「おほほ、仲がおよろしいことで」
「喧嘩はその辺になさってはいかがですか? リーグ王子が喋りにくいでしょう」
そう言ったのは、三人でもリーグでもない。
少女の声だった。
「誰だ?」
「失礼、申し遅れました。私はマクスブレイズ王女のマリヤッタと申します。このたび、リーグ王子の元で、会談に参加させていただきます」
「あら、貴女が。生きてらっしゃったのね」
「はい。ウェスティーナ女王様は、お変わりない様子ですね」
「ふふ。ありがとう。無事な様子でなにより」
マリヤッタの言葉に、女性は微笑んだようだ。
聡明であり、また腹黒いと言われるまでに強かな人物、インシェーニ王国女王ウェスティーナは、実に楽しげであった。
「では、早速ですが話を進めたいと思います。現在、御三カ国は戦争の真っ只中のようですが、これを今すぐ辞めて頂きたい」
前座のやりとりが終わったのをみて、リーグ王子は本題に入った。
すると、早速場の空気は変わる。
「理由としては、今同じ人間と争っている場合でないためです。私やマリヤッタ王女、それぞれが属していた王国が、魔物によって滅ぼされています。その脅威は、すぐに大大陸にも押し寄せてくるでしょう」
「魔物の侵攻に備えるためにも、今は人間同士の結束が重要です。各自、提携することで魔物への備えを行なって欲しいのです」
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