人魔戦争の開幕―――――――――――――――――――――――――――――

88.急襲開始――戦争の火蓋

 深い霧が立ちこめている。

 遥か先まで見通せない深い白が支配する海原の中、その向こうから現われた船たちは、ひっそりと陸へと近づき、着岸していく。

 そして、そこから複数の異形たちが、我先にとぞろぞろ陸へ降りたっていった。

 異形の正体は、骸骨の身体を持つ魔物たちだった。

 彼らは、薄い布きれを身に纏うと共に、それぞれ剣や槍などの武器を手にしていた。


「ケケケ、まんまと上陸出来たな」

「人間どもめ。我らの侵攻を全く予想していなかったと見える」


 そう口々に言いながら、骸骨の魔物たちは陸を進み出す。

 船を下りていった彼らは、列もなさずに思い思いに内陸へ向かって進み出す。

 その数は、数百から千以上に渡っていた。

 かなりの数である。


「ケケケ、人間どもの皆殺しの始まりだ!」

「皆殺し! 皆殺し!」


 口々に唱和しながら、彼らは猛るように進み出す。

 彼らの今後の行動方針は、この霧に乗じて近くの港町を襲撃し、そこで人々を虐殺した後、これを占拠する手はずとなっていた。

 彼ら魔物の群れは、上陸を終えると、船に兵を残すことなく、一斉に街へ向かって進み出していた。

 そんな最中である。

 突然爆発音が響き渡り、同時に霧を照らす光が発せられる。

 光源は、魔物たちの背後であった。

 彼らが振り返ると、そこでは彼らが今し方乗ってきた船が、炎上していた。


「な、なんだ?!」

「ど、どうして我らの船が――ぎゃああああ!!」


 突然の事態に動揺する魔物たちだったが、今度はそれに続いて悲鳴が轟く。

 原因は、今度は彼らの前方だ。

 彼らが進む先には、港町へ至るための丘があったが、その丘の方から、大量の銃声が響き渡ったのだ。

 霧を引き裂く光の弾丸が、断続的に魔物を狙う。

 それに魔物の悲鳴が響く中、同時に燃え上がる船の向こう、海の方からも矢が飛んできた。大量に降り注ぐそれは、魔物たちの最後尾に雨となって降り注ぐ。

 これに、魔物たちの動揺は最高潮に達する。


「くっ! 伏兵か?!」

「馬鹿な?! 我らの侵攻を、読んでいたとでもいうのか?!」


 驚き困惑する魔物たちは、そう言いながら右往左往する。

 前方からは弾丸、後方からは矢という、遠距離攻撃の挟み撃ちに、なすすべがない。

 魔物の中に指揮官はいないのか、あるいは襲撃早々に撃たれたのか、魔物たちは思い切った動きがとれず、ただひたすらに蹂躙される。

 が、やがてその雨もやみ、そして霧の向こうから人の群れが姿を現す。

 武装した彼らは、すでに半数以上が瓦解した魔物の群れに、とどめを刺すべく接近してくる。


「ぐっ! む、迎え撃て!!」


 魔物の誰かがそう言うと、魔物たちは前後に分かれて敵へ向かい出す。

 だが、ただでさえ数が減った状況で。分かれて戦うノは愚の骨頂だ。

 迎え撃つ人間たちの前に、やがてその一団は壊滅へと追い込まれるのだった。





「魔神軍師様! 報告です」

「よい。聞かなくてもわかる。すでに同じ報告が、七件も続いていればな」


 辟易とした様子で言うと、魔神軍師は使者を追い払う。

 そして、触手髭を弄びながら、王の間へと向かっていった。

 その間にも、使者は続々とやってくるが、それらも適当にあしらい、魔神軍師は王の間へ到達し、奥へと拝礼した。

 そして、開口一番に、謝罪する。 


「大魔神様、誠申し訳ありません」

「ほう。謝るということは、お主でもこの状況を読み切れておらんかったか」


 すでに状況が伝わっているのか、大魔神は奥で苦笑する。

 次々と来る報告は、前線の魔物たちが壊滅しているということだった。

 まだ、最前線の先遣隊がやられたのみで、本隊が壊滅したという報告はないが、かなりの数の戦法がやられていた。


「・・・・・・いえ。予測はしていましたが、ここまでとは思いませんでした。儂の見込みが甘かったようです」


 そう言って、魔神軍師は陳謝する。

 同時に、この出来事がもたらず事実を、彼は口にした。


「おそらくですが、人類はすでに大国間での大同盟を構築済みのようです。こちらへの備えは万全かと」

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