83.根深い対立
「――なるほどな。お前たちの要求は二つ。一つはの近くの木々の伐採を許可して欲しい。もう一つは我らに魔物と一緒に戦って欲しいということだな」
話を聞くと、アダルフは首肯した。
場所は、ナポス王国の西部を縦断する密林の真っ只中である。
シグとルメプリアをはじめ、交渉のためとついてきたルシラ率いる騎士たちは、亜人の集団と対峙していた。
相対する亜人たちは、皆戦士のようで、シグたちがやってきた際は矢を構えてきた。
その後、話し合いをしにきたとシグやルシラが告げた結果、アダルフが理知的に応じてくれたのだった。
だが、それで両者の間の緊張が解けたわけではない。
むしろ、ピリピリとした緊迫感が両者の間では生まれていた。
なにせ、内容が内容だ。
少し横暴かもしれない、無茶な要求かも知れない話に、騎士たちは固唾を飲む。
そして、実際に返ってきた返答は芳しくなかった。
「答えを言おう。答えは否だ。どちらも、許可は出来ん」
「それは・・・・・・なにゆえだ?」
アダルフの答えに、すぐさまにルシラが尋ねる。
彼女が問う中、シグとラートゲルタは周囲を警戒する。アダルフの返答と同時に攻撃意思を見せてくる輩がいないかを警戒するが、流石にそこまで粗暴な者はいなかった。
「理由を聞かせて欲しい。私たちは、あくまで争いでなく、話し合いによる解決を望んでいる」
「決まっている。どちらも人間の勝手な都合だからだ」
ルシラの確認に、アダルフはそう断言する。
「この当たりの木々は、我らの生活資源であり、財産だ。それを勝手に切って持って行く事は許可できん。そして人間と魔物との抗争は、お前たちが勝手にしていることだ。それに、我らのような亜人がわざわざ手を貸すつもりはない」
「そこを、なんとかお願いできませんか?」
厳しい言葉を告げる相手に、シグは言う。
「せめて、木々の一部を伐採していくことだけは許可してください。それさえ受け入れてもらえれば、我らは貴方がたが戦いに参加しないのも受け入れましょう。同時に、魔物との戦いに巻き込まれないように――」
「図に乗るな、小僧」
論理を説くシグだったが、その中で矢が飛んできた。
シグは余裕を持ってそれを躱すが、しかしその瞬間、両者の間で緊張が一気に高まる。
「この前は見逃してやったが、今回はそうとは限らんぞ。貴様らがふざけたことを抜かし続けるならば、それ相応の報いを受けてもらうことになる」
そのようなアダルフの言葉と共に、亜人たちは強い敵意を叩きつけてくる。
その激情の幅に、騎士たちは流石に押し黙る。
「そもそもだ。貴様らは昔から、我らを駆逐し、迫害してきた。それなのに、いざ自らが窮地になった瞬間、手を組もうなどというとは無視がよすぎる。想は思わんか?」
「それは・・・・・・」
「亜人も魔物と同じだ。だから何をしてもよい――――昔からそう言って好き勝手な行動をしてきたのは、誰だ?」
目を細めながら、アダルフは尋ねる。
犬の相貌に理知的ながら、野性的でもある表情を浮かべ、彼を初めとした亜人たちは敵意と怒気を浮かべる。
「我らからすれば、人間も魔物と同類だ。数少なき我らを、数の力で圧倒し、蹂躙してきた、な。そんな奴らと、手を組むことに積極的な亜人などいるはずがないだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さっさと去れ。でなくば、今ここで、戦を始めてもよいのだぞ?」
「もう一つ、聞かせてくれないか?」
相手の凄まじい迫力、そして交渉は決裂だと言わん言い草に、シグはそれに臆することなく、尋ねる。
「もし、人間と魔物が戦争を始めたら、お前たちはどうする気なんだ?」
「・・・・・・貴様らの戦争に、我らは興味がない。関係ないからな。当然、静観させてもらうぞ」
「しかし、それは――」
「それは、はっきり言って下策よ」
少し言いづらそうに言葉を紡ごうとしたシグを遮り、そう言って進み出たのはルメプリアだった。
今まで静観してきた少女が進み出ると、彼女が出てきたことに、亜人たちは鼻白む。
「人間が一致団結する以上、貴方たちは静観していては、人間が勝つにしろ負けるにしろ、苦しい状況に追い込まれるわ」
「・・・・・・どういう意味だ?」
胡乱げな様子で、アダルフは尋ねる。
話に応じてきた相手へ、ルメプリアはにっと笑って話を続ける。
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