81.外交作戦会議

「――以上の説明を簡単にまとめますと、現在はリドニーク帝国が南方のインシェーニ王国とポリスピア共和国に向けて侵攻を仕掛けており、王国と共和国は一時的な協定を結んで応戦しているということです」


 人々が集う前で、スノートが大大陸北方の大国の情勢の説明を行なう。

 旅で練想術によって生まれた技術を伝えるかたわら、各国を渡り歩くことで各国の情勢を探るのも彼女らの役目であった。

 その報告を聞き、リーグ王子が頷く。


「ご苦労だったね。君たちの報告のおかげで、今後の方針の指針が築けそうだ。例を言うよ」

「勿体ないお言葉です」


 王子の言葉を受け、スノートたちは恭しく頭を下げる。

 それを見て、「さて」とリーグは皆を見回す。


「彼女らのおかげで、大国間の情勢は分かった。問題は、彼らをどう説得して、同盟させるかだ」


 王子が懸念を表明すると、それを受けて皆が思案の表情をする。

 列席しているのは、ルシラ王女にエドワード団長、それと亡命できていた大臣たちや、練想術士の代表としてエヴィエニス、また諸事情から加わっているマリヤッタなどであった。


「以前にマリヤッタ殿が提唱されたように、この三カ国が結束すれば、大大陸のほとんどが対魔物軍への共闘態勢を敷くだろう。そうなるのは、魔物たちは避けたいはずだ。それだけ、大大陸でこの三カ国が手を携える意義は大きい。場合によっては、この三カ国の同盟がなされる前に、魔物たちは大大陸の侵攻を開始する可能性もある」

「それだけ、この三カ国の同盟は大きいわけですな」

「うむ。戦争慣れし、巨大な軍事力を持つ三カ国の結束は、大大陸の人間勢力の維持に大きなパワーバランスを持つ。魔物といえど、一度これが結束すれば、容易には侵攻ができなくなるからな」


 話の内容を思い出しながら、エドワードとルシラが続けて言う。

 その言葉に、マリヤッタは頷いた。


「問題は、どうやってこの三カ国を同盟させるかね。犬猿の仲、時に利害から同盟を結ぶことはあっても、決して相容れないのがこの三カ国のあり方よ」


 よく情勢や各国の傾向を分析できているのか、マリヤッタの言葉には確信があった。


「きっと、交渉は難航するわ。その間に、魔物たちはきっと、これら国家のどこかを、あるいは大大陸の各地を攻めてくる。そうなって、大大陸全体の結束が遅れ、状況も手遅れになってしまったら、もう人間に反撃の余地はなくなる。そうなったら、詰みよ。後は、魔物の蹂躙が待っているだけね」

「そうならないように、大国各国に同盟を呼びかけねばならないのですが・・・・・・難しいですね」


 マリヤッタと説明に、エヴィエニスが苦い顔をする。


「ただ、一時的な策はないわけではないね」

 そう言ったのは、皆の話や確認を聞いていたリーグ王子だった。


「利害で動く国ならば、利害を説けばいい。そして、各国に利があるものを与えればいい。幸い、スノートの報告で、ある程度分かってきた」

「と、いいますのは?」

「そもそも、帝国が侵略するのは、人口の増加による食糧不足や雇用の激化などを初めとした諸問題への不満を、他の二カ国に向けるために起こしている。それならば、人口増加しても国体が維持できるような方策や技術を提供すればいい」


 人差し指を立てながら、リーグ王子は言う。


「一方でインシェーニ王国も最近の帝国との戦いで、国内が疲弊している。帝国の侵攻が止まり、国内の政治へ注力する余裕が出来ることの利と、それを早めるための方策や利便性の高い技術を伝えれば、同盟に肯定的になることだろう」

「共和国には?」

「彼らは、自由の国を謳いながらも、なかなか国民の不満は高まっているようだ。それを解消するための技術を、我らが提供すればいいだろう」

「技術、というけど、具体的には?」


 マリヤッタがそう尋ねたのは、リーグに対してというよりも、横に座ったエヴィエニスに対してだ。

 これについては、彼女の方が詳しいと理解しているからだ。

 現に、エヴィエニスはそれに応える。


「南方諸国家に伝えたような、電気技術がいいでしょう。ただ、その規模は南方諸国よりもより大きめの、大規模な人口が必要なものを伝えます。そうすれば、大国内でも運用が可能になります。他にも、いくつか案はありますが・・・・・・」

「それは、また後々協議しよう。それより、今頭を悩ませている問題があるからね」

「どんな、ですか?」


 話を静観していたスノートが、不思議そうに尋ねる。

 話を聞く限り、特段問題はなく、また解決策も見つかっているように聞こえた。

 一体何が問題なのか、と言う疑問である。


「大国各国の、連携を取る方法だよ。大国間に使者を使わすのもよいが、交渉は難航するだろうからね。そうなれば、時間がかかりすぎる」

 交渉となれば、その際には当然使者を派遣してのものになる。

 その間に、使者を通じて互いの意見を突き合わすということが、ネックである。

 その間に、魔物が攻め寄せて来るとも限らなかった。


「これを解決するには、各国の首脳を一度に集め、充分に協議をさせる必要があるが、難しいだろうね。まず、各国の首脳は警戒して、自ら出てくることはないだろう。彼らを安心させて一堂に会するのは、かなり困難な課題だ」

「別に、一堂に会する必要はないんじゃない?」


 突然そのような提案をしてきたのは、ルメプリアであった。

 その言葉に、皆が不審な目で振り返る。


「要するに、同時に連絡を取る手段を用意すればいいのだから。こんなのはどう?」


 そう言って、ルメプリアはその方法を具体的に語り出す。

 彼女が少しずつ語っていくその内容に、耳を傾けていたものたちは、やがて驚く。


「なるほど・・・・・・。確かにそういう手はあったか・・・・・・」

「問題は、それを可能にする技術だな。また、練想術士に頼ってしまうことになるが・・・・・・」


 考慮しながらも、ルシラは申し訳なさそうに、エヴィエニスの方を見る。

 それに対し、エヴィエニスは嫌な顔一つせずに頷く。


「魔術士の方と、話し合う必要はありますが、理論が分かれば可能です。問題は、それだけ大きな物を、用意する費用と人員ですが」

「費用はこちらがどうにかしよう。人員は、練想術士でどうにかしてもらうしかないが・・・・・・」

「いえ。『装置』を作るのは練想術士ですが、設置に動くのには騎士たちが行なえばどうでしょう? また、魔術士も『開発』に協力させれば、多少人員は割けるはずです」

「なるほど。ならばそれでいこう。頼んだ」


 エヴィエニスの話を聞いて安心した様子で、ルシラは再び頭を下げる。

 それに対し、エヴィエニスも顎を引く。


「よし。では各自でこの方針で動こう。皆、頼むぞ」


 詳しい内容についてはこれから協議するものとして、しかし指針がきまったことで皆が顎を引く。

 そして、それぞれが各自の分野で尽力することを意識するのだった。

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