80.敵意なき対立者たち

「スネール! いつここに来たの?!」

「スネールちゃん、久しぶり!!」


 ナポスの城に臨時で設けられた練想術士の工房へ、シグが担いでスネールを連れていくと、彼女の登場に練想術士たちは驚きと喜びの声を上げた。

 それを受け、シグから解放された彼女は、シュバッと敬礼のポーズを取る。


「はい。ただいま、帰参いたしました! お勤め、ご苦労様でーす」


 恭しく、しかし表情には満面の笑みを浮かべる。

 久しぶりの再会に、彼女もまた喜んでいるようであった。


「よかった。これで、少しは楽になるかもね」

「そうだな。今、人手不足だったからなぁ。スネールがいれば、少しは楽になるな」

「そうですね。助っ人としては、頼もしいですね」

「・・・・・・あれ? なんか私、再会の喜び以上に、何か別の事で期待されてる?」


 何か、思っていたのとは違う皆の反応に、スネールは不審がる。

 すると、それに周囲は頷いた。


「そりゃあそうだよ。だって今、こちとら仕事が忙しいんだから」

「スネールにも働いて貰わんとなぁ。若者はこういう時に頼りになるものじゃ」

「え・・・・・・私との再会自体への喜びはなし?」

「うん」

「がーん・・・・・・皆、薄情だ・・・・・・あんまりだ・・・・・・」


 一同に頷かれ、スネールはよろめいた後で、工房の端で縮こまっていじいじといじけ出す。

 その反応に、皆も流石に反省したのか、慌ててフォローに向かう。冗談だよ、とか、本当は純粋に嬉しかったんだよ、といって、いじけるスネールを励ましていった。

 そんなやりとりに、シグは無言で微苦笑を浮かべる。

 そんな中で、ふと横に立っていたスネールの姉・スノートから声がかかる。


「シグさん。少し、お聞きしていいですか?」

「どうしました?」

「あの機械、なんでしょうか? 見たこともないものですが・・・・・・」

「あぁ、光魔弾レイニー機関銃ですか」


 スノートが指さした方向へ、目を向けてシグは頷く。

 そこには、かつて魔王を完膚なきまでに玉砕した兵器が置かれている。

 しかも、一つではない。

 今それは、合わせて三つ置かれていた。


「あれは、今しがた対魔物戦線のために用意している、切り札です。練想術士の皆様には、アレを今、量産してもらっています」

「切り札・・・・・・武器、ですか?」

「そうですね」

「えっ、どんな武器なの?」


 いじけていたはずのスネールが、いつの間にか戻って尋ねてくる。

 その転身の速さに呆れつつも、シグは説明を続ける。


「連続射出が可能な銃、といったところだ。ところで、帰ってきたからには、すべきことがあるだろう、お前」

「ん? なんだっけ?」


 シグの言葉に、スネールはきょとんと目を丸める。

 どこか間抜けで可愛らしい顔であるが、しかしシグはそう思わず、ただ呆れる。


「お前な・・・・・・。エヴィエニス殿と王子たちに、旅の成果と各国の情勢の報告をする仕事があるだろ」

「・・・・・・あ! も、勿論覚えていたよ~」

「忘れてたな」

「うるさい! シグ死ねぇ!」

「ごまかすな」


 話をずらそうとして飛びけりを繰り出してくる少女を、シグは軽くいなしてデコピンする。

 その一撃に悶える彼女に、練想術士たちは呆れた様子で苦笑を送っていた。

 すると、額を押さえていたスネールは、それに胡乱げな顔をする。


「あれ・・・・・・? 皆、どうしたの?」

「? どうした、とは?」

「以前なら、もっとシグに当たり強いのに。私をいじめるなーとか言って・・・・・・」


 その言葉に、練想術士たちは固まる。

 それは、指摘されるまで無意識な事実だった。

 練想術士たちが硬直する中で、シグはというと苦笑を浮かべていた。


「まぁ、いろいろあったのさ。それより、王子たちに会うための手はずを整えてやるから、ここで少し待っていろ」

「うん・・・・・・分かった」


 少しばかり、釈然としない様子のスネールをおいて、シグは面談の手はずを整えるために、王子たちの元へ向かうのだった。

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