決着と新たな問題―――――――――――――――――――――――――――

75.心からの声――結実

 各国の代表者が協議を行なっていた会場へも、やがて騎士はやってきた。


「報告します! 魔物たちの撃退に成功。魔物たちを討ち、街を守る事に成功しました!」


 そう言ってから、騎士はその具体的な報告に入る。

 魔物は魔王に率いられて、魔王自身は会議場のすぐ手前まで迫ったものの、騎士たちによって討ち取られた。

 そして、それによって魔物たちも戦意を失い、撤退をしていったことなどが告げられた。

 その報告に、各国の代表者からは安堵の息がこぼれる。

 その矢先、であった。


「――今、安堵の息を漏らしたということは、皆様の多くは、魔物の脅威を身にしみて感じたということだな」


 そう口を開いたのは、ルシラだった。

 それが図星であったのか、多くの代表者はドキッとしながら、口を噤んで彼女へ振り向く。


「その恐怖を、忘れないでほしい。その恐怖は、私たちが支配している民が、常に感じている脅威なのだ。我らが魔物への対抗のために、連帯をお願いするのも、その脅威を取り除き、国の滅亡という最悪の事態を免れるためである」


 彼女の言葉に、今はこの場全員の視線が注がれていた。

 そんな視線の中で、彼女は告げる。


「損得勘定も、国家の運営には不可欠だろう。だが、それだけのためではない。世界各国の人々のため、このような魔物の脅威に脅かされている人々のために、皆が力を合わせてほしいのだ。だから頼む、皆で協力してくれ!」


 大きな声を上げて、ルシラは彼らに頭を下げる。

 それは、何の打算も目論見もない、ただだた一心の真情であった。

 必死に訴えかける彼女の心からの声に、計算ずくめの各国の代表者も、流石に黙り込む。

 どう返答したらよいものか、彼らにはすぐに言葉は浮かばない。


「彼女がこれだけやっても、まだ損得勘定をするというなら、進言するわ」


 この状況で最初に口を開いたのは、マリヤッタであった。

 彼女が何やら声を張って言葉を告げようとする姿勢をみせたことに、内心でルシラや騎士たちは驚く。

 そんな中で、マリヤッタは言う。


「私たちは、マクスブレイズもセルピエンテも、今この街に押し寄せた魔物の数百倍、いえ、数千・数万倍の魔物たちに祖国を蹂躙されたわ。今し方皆様が感じた恐怖や脅威も、放っておけばそれ相応に膨れ上がることでしょう」


 恐怖は、ただ単に数に比例して膨らむものではないものの、しかし彼女の言葉には説得力があった。

 それは、彼女が恐怖を実体験したからだろう、重みである。


「それを前に、まだ各国の防備だけでどうにか出来ると思っているならば、その考えは捨てることです。放っておけば、その仮想される脅威はいずれ現実のものとなるでしょう。対抗するには、皆の結束が不可欠です」


 理に適った正論を説き、彼女は周りの皆に、仰ぐ。


「どうか、ご決断を。国を富ます前に、国を守るための連帯の重要性を。国内を発展させる技術を運用する前に、国が滅びては何の意味もなしません」


 胸に手を当て、周りを見る彼女に、各国の代表者は顔を合わせる。

 ――ほどなくして、各国の代表者は、各々で近くの者たちと話し始める。

 内容は、みな魔物に対する対策についてだった。

 今は各国が争うべきではなく、情報を共有して、魔物への退治に奔走すべきだ、というものである。

 それは、やがてこの場全体と躱される、大きな議論になっていく。

 そして、各国の代表者による、対魔物への協定が締結される運びへとなるのだった。

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