63.クエストが発生しました
「シグ、久しぶり!」
掛けられた声に、シグは振り返る。
王宮の外で、王子や王女の国王との面会が終わるのを待っていた彼は、王宮からやって来た懐かしい顔を見て目を丸める。
だがすぐに、その顔を綻ばせた。
「ハマー、ヴィスナ。それにビアリさんたちも」
やって来た騎士たちは、事前に王国を出て諸国家へ交渉に出ていた騎士の面々だ。
彼らとの再会に、シグを初めとして、王宮の外で待っていたセルピエンテの騎士たちは喜ぶ。
「お久しぶり。お勤め、ご苦労様」
「大変だったんだろう? すまないな、大事な時に側にいれなくて」
ヴィスナとハマーは、シグへ近づくなりそう詫びてくる。
その言葉の意味を、シグはすぐに察した。
「・・・・・・すまない」
「え・・・・・・? あ、いや、そういうわけじゃ・・・・・・」
「貴方は悪くないわ」
言葉の意味を解し、失言だったかと考えるハマーに対し、ヴィスナは言った。
「貴方が防げなかったことを、私やハマーが防げるとは思えない。むしろ、もっと悲惨なことを生んでいたかもしれない。それより、今は再会を喜びましょう。でないと、ここまでこられなかった人に失礼よ」
「・・・・・・お前は、相変わらずだな。ありがとう」
ヴィスナの力強い言葉に、シグは苦笑しながら礼を言う。
その言葉に、ハマーは感心すると同時に、自分ではこんなことは言えないなと、違う意味で苦笑するのだった。
会談が終わった後、リーグやルシラたちと、エドワード団長やシグたち、またエヴィエニスやマリヤッタたちなどは集まっていた。
それぞれが、この国へやって来たセルピエンテの各方面とマクスブレイズの代表者たちである。
「本当に、すまない」
開口一番、ルシラはそう皆に向けて謝罪した。
「私たちが力不足であるがゆえに、この国の施政者からぞんざいな扱いを受けてしまった。こんな境遇にしてしまったことを、全く申し訳なく思う」
「何を言っているのですか、王女」
彼女の発言に、そう苦笑気味に言ったのは、シグだ。
「誰もそんなことは思っていません。王女のせいではありませんよ。謝るのは、非力な我ら臣下の方です。力及ばず、王子や王女をこの大陸へ追いやってしまったこと、誠に申し訳なく思います」
「シグの言うとおりです。騎士一同、皆申し訳なく思っております」
「外交使節の代表として、謝罪いたします」
「練想術士も同様です」
王女の謝罪に対し、シグが放った言葉がきっかけとなって、皆が謝る。
謝っているようでいて、しかし言外にそれは、王女を励ます言葉でもあった。
その言葉の波に、ルシラは困惑した後、もう一度頭を下げる。
「すまない。ありがとう」
「それより、問題はこれから民をどうするかではないでしょうか? このまま待っているだけでは、この国の国王のこと、どんな粗雑な対応をされるか知ったことではありませんよ」
そう口を開いたのは、ビアリだった。
彼の発言に、皆は同様の考えを持つ。
「確かに~。我らの王子様たちとの会談よりも、狩猟を優先するような人ですからねぇ」
「技術提供の旧恩も忘れて・・・・・・。恩知らず」
「ま、まぁまぁ」
容赦ないラートゲルタとヴィスナら女性陣を、ハマーがなだめる。
「交渉が難航しているのは、仕方がないことです。何も後ろ盾がない我らを、この国の王が丁重に扱ってくれるとは思いません。何か手を打たねば、相手の思うがままでしょう」
そう言ったのは、外交使節の政務官の一人だ。
その言葉に、リーグは頷く。
「そうだね。とはいっても、後ろ盾が我らにあるわけではない。ここは、僕や姉上、政務官たちで、必死に我らを匿う事の利を説くしかない」
「利益があれば、あの国王なら態度を変えるかもしれません。問題は、我らがどんな利益を説くかですが・・・・・・」
年配の騎士がそういう中、皆が思考を巡らせるように押し黙る。
決して重苦しいわけではないが、緊迫した沈黙が流れる。
「一つ、提言してもよろしいですか?」
そう言って手を挙げたのは、エヴィエニスだった。
練想術士の宗領として、これまでの国政や避難行などでも大いに活躍した彼女は、発言権を得てこの場に招かれていた。
彼女をみて、ルシラは頷く。
「あぁ、構わんぞ」
「こう言う場合、出来ないことをやろうとしてはなりません。出来ることを、各自がやっていきましょう。座して待つというのが、最も下策です」
「出来ること・・・・・・例えば?」
シグが尋ねると、エヴィエニスは言う。
「一つは、国王や彼の臣下の心証をあげることです。話を聞く限り、彼は旧恩よりも利益を取りますが、同時に個人感情も重視するタイプとみました。ならば、彼自身や彼の寵臣からの意見があれば、それで揺さぶる事ができるかもしれません」
「なるほど。しかし、具体的には何をすればいいだろう?」
「そうですね・・・・・・接待や、彼らの手助けなどいかがでしょう。出来ることで政務や活動の手伝いをすれば、自然と心証はよくなるはずです」
まるで賢者のように、エヴィエニスは提案する。
「同時に、民たちの間でも評判を上げる事も手です。施政者は損得勘定もあるため味方にしづらいですが、一般の民は、それ以上に情を重視します。彼らに好感を持たせて味方にすれば、いざという時役に立つかも知れません」
言いながら、「少し下衆な行為ですがね」とエヴィエニスは苦笑した。
それらの提案に、皆はなるほどと頷いた。
ただ待つのではなく、個々人が出来ることをして、この国の各自に好感を持たせておくというのは、大事なことだ。
国家という後ろ盾がない以上、こちらは『感情』を掴んで後ろ盾にするほか道はない。
「いい考えだ。向こうも、手助けする我らを無下には出来ないだろうからな」
「基本的な目標方針を立てておくと良いかもしれませんねぇ。王子たちや外交官の方々は、国の重鎮や政務官をぉ。我々騎士や練想術士の皆さんは、人々の手助けをぉ。その他の方々は、普段の行動で良い行為を、それぞれお願いするとか」
「逆に、あえて目標を決めない手もいいのでは? 無償でやっている感じが出るし、こちらの打算も見抜かれにくくなるかも」
「とにかく、この国や市井にある、諸々の問題を解決していきましょう。そうすれば、心証は自然とあがるはずです」
「うむ。よく分かった。だが、具体的には――」
各自が各自、己の考えを口に出し合う。
そんな盛んな議論が行なわれるのを、末座で一人、じっと見る少女がいた。
彼女・・・・・・マリヤッタは、そんな各自が知恵を出し合う行為に、目を細め、そっと伏せる。
それを、横でルメプリアは見逃さなかった。
「羨ましいよね、こういうの」
その小声に、マリヤッタは目だけ向ける。
「国を捨ててなお、彼らは守るべきものを見失っていない。やるべき責務を果たそうとしている。こういうことの出来る余地がある人は、幸せよね」
「・・・・・・それは、何も出来ない私へのあてつけかしら?」
議論の邪魔にならない程度に、マリヤッタはルメプリアに尋ねる。
すると、ルメプリアは微苦笑を浮かべた。
「何も出来ない、ことはないわよ。貴女にも出来ることはあるわ。それから、貴女はまだ目を背けているだけ。彼らみたいに、出来る事から始めたら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルメプリアの提言に、マリヤッタは黙り込む。
本当に、自分にも出来ることなどあるのだろうか。
全てを失い、全てから逃げ出していた自分に、今更出来ることが。
そんなことを、マリヤッタは思わずにはいられなかった。
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