61.光魔弾レイニー機関銃

 筒状の物の先端の口径から発射されたのは、光の弾丸だ。

 火ではなく、光を吐いたその銃身は、単発ではなく、絶え間なく複数の光弾を射出していく。

 ドドドドドドドと音を立てた銃身から発せられた光は、残影を置き去りに、横殴りの雨粒となって魔物へ突き進む。

 そしてその弾幕は、瞬く間に魔物を蹂躙した。

 光の弾は、着弾と同時に爆裂し、凄まじい威力で魔物たちを爆砕していく。

 次々と空中で爆死していく魔物たち――その光景に、その場の人間たち、また魔物たちも皆愕然とした。

 徐々に、粉々になっていき、撃墜していく魔物たち――ほんの十数える間もなく、魔物の数は、数百からその十分の一以下まで喪失した。


「な、なんだそれは?!!」


 先ほどまで哄笑を繰り返し、余裕を崩さなかった魔王・エビレグルが、初めて焦燥と動揺を口にした。

 その圧倒的な破壊力、そして圧倒的な攻撃速度に、奴も度肝を抜かれたのである。

 それは、人間も同じだ。


「なんですか、あれは?!」


 普段は声を荒げないエヴィエニスが、声を荒げる。

 同時に、ラートゲルタはその光景を茫然とした様子で眺めていた。


「神の遺産、『光魔弾レイニー機関銃』」


 答えたのは、シグだ。

 彼は、ラートゲルタをゆっくり地面へ下ろしながら、その顔ににやりと笑みを浮かべる。


「内蔵された魔道石を操ることで、筒から一秒十数発の弾丸を、最長五十秒間発射する兵器らしい。弾丸一つの威力は、鉄砲の弾丸一発以上に相当するそうだ」

「な・・・・・・なんですかぁ、それ?!」


 聞いたこともない兵器に、ラートゲルタは頓狂な声をあげる。


「そんな兵器、見たことも聞いたことないですよぉ?!」

「俺もだ。だが、精霊様いわく、神の遺産とはそういう代物らしい」

「ぐっ・・・・・・ふざけたものを!」


 シグが淡々という中、一時茫然としていた魔王は、ようやく思考を取り戻した様子で、翼をはためかせて空へ飛びかけながら、生き残りの魔物たちを見る。


「全員、撤退せよ! 一度体勢を――」

「逃がすかよ」


 言うや、シグはラートゲルタが持っていた剣を奪い、それを魔王へ投擲する。

 飛んできた剣に、魔王は反射的にそれを爪で打ち払う。

 その剣の軌道を、シグは直進していた。

 彼はそこでエビレグルへ飛び込むと、受け身も取らないような捨て身で刃を叩きつけてくる。結果、彼の斬撃はエビレグルを捉え、飛び立って逃げようとした奴は体勢を崩して、よろめきながら地面へ着地する。


「サージェ! こいつが頭目だ!」

「! あれを狙ってください!」


 シグの声に、サージェが指示を出す。

 すると、騎士たちはぐるんと機関銃の先端を魔王に定める。

 そして、降りしきる、横殴りの光の雨。

 魔王へひた走った弾幕は、奴をとらえ、爆砕・粉砕していう。


「がっ・・・・・・! 助け――ぐはあああああああ!!!!」


 許しを求めかけ、しかしそれすら許されず、魔王は中で粉々になっていく。

 そして、エヴィエニスやラートゲルタを追い詰めた魔王すら、その兵器の前にはなすすべもなく散っていった。




 魔物たちは、頭目が虐殺されたことで慌てて逃げ出したが、その背を機関銃が逃すことはなかった。

 奴らは皆、追撃の弾丸に捉えられ、視界に残って逃れえた魔物は一体たりともいなかった。

 魔物たちを撃退した後、ほとんどの人間は、それをなした兵器へ瞠目しながら、視線を向けていた。

 兵器の威力に、彼らは皆愕然とした様子であった、

 一方で、そんな兵器の元にいるサージェたちへ、シグは近づく。


「やったな」

「うん! 上手くいった・・・・・・」


 シグの声に頷き、安堵した様子を見せたサージェは、しかしすぐに、顔を曇らせる。

 そして、笑みを浮かべてはいるが、視線を伏せて微かに震えていた。


「どうした?」

「うん。ちょっと、怖いなって。こんなすごいものを、直してしまったことに」


 そんなことを口にするサージェに、シグは目を細める。

 魔物を追い払ったのはよい。

 魔王を倒せたのはすごい。

 だが同時に、それを簡単になしてしまうほどの兵器に、彼女は戸惑いと不安を隠せない。

 思いのほか思慮深く、また心根の優しい彼女のことだ。何か思うところがあるのだろう。


「だが、おかげで人々の命を救えたんだ。ラートゲルタさんや、エヴィーも助かった。今は、それについても喜んだらどうだ?」


 シグが、あえてそう口にすると、サージェは表情こそ変えないまま頷く。

 頷きはしたが、まだ心のどこかに蟠りがありそうな、そんな様子だった。

 ほんの少し、二人の間に重い空気が流れかけた、その時だった。


「ふふーん。どう、神の遺産の威力は!」


 空気を読まない自慢の声が、遠くからやって来る。

 それは、この場には少し遅れてやって来た人影たちで、見るとそこでは、先頭に立つルメプリアが、誇らしげに胸を張っていた。


「私の言ったとおりでしょ! 神の遺産はすごいって」

「・・・・・・そうですね。感心しました、自称精霊様」


 少しばかり偉そうな彼女に、シグはいつもの仮面の表情を受け直して言う。

 その愛想良い笑みのまま、彼は言う。


「おかげで、魔物どもを一掃できました。感謝します」

「へへーん。もっと讃えてもいいのよ?」

「分かりました。今度果物を一つほどお供えします」

「ふふーん。結構・・・・・・って、じ、地味ぃ!」


 鷹揚に頷きかけたルメプリアは、シグの何気ない辛辣な対応に呻く。

 彼らのやりとりに、周囲にいるサージェや騎士たちは微苦笑を浮かべていた。

 そんな中で、練想術士の仲間に支えられながら、エヴィエニスがやって来た。


「――シグ。向こうに、国境警備の兵士たちがいます。彼らが、人々の受け入れを受諾してくれるそうです。早速ですが、誘導を手伝ってもらえますか?」


 そう言われ、シグは頷く。


「えぇ、分かりました。すぐ向かいます」


 そう言うと、シグは仲間の騎士たちの方へ向かって走り出す。

 すぐに、誘導の指揮に加わるつもりに見えた。

 そんな彼を見送り、エヴィエニスは魔物たちを倒した兵器を凝視する。


「これは、興味深い武器ですね。あれだけの威力を持つ兵器があったとは・・・・・・」

「あら。貴女でも気になるのね?」


 そう尋ねたのは、ルメプリアの後ろから現われたマリヤッタだ。

 そこにはヘイズ姉妹の姿もあり、どうやら彼女たちは、武器を持って先行したサージェたちより遅れてやって来た様子だった。

 マリヤッタの問いに、エヴィエニスは振り返ることなく頷く。

 その目は、何か思案で染まっている。


「えぇ。構造が知りたいです。私も作ってみたいので」

「ちょ、ちょっとエヴィー・・・・・・師匠!」

「・・・・・・練想術士とやらは、抜け目なくそう言うこと考えるのね」


 大真面目に言うエヴィエニスに、マリヤッタは呆れた様子で笑う。


「でも、これでようやく見えてきたわね。魔王たちへの反撃の光明が」

「うん、そうだね!」


 マリヤッタの言葉に、ルメプリアが明るく頷く。

 そのやりとりは、人間たちが魔王すら圧倒する兵器を手に入れたことを示す瞬間でもあった。

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