岩石遺跡の遺しもの―――――――――――――――――――――――――――

52.石の遺跡

 密林の間に収まった建造物群の中では、かなりの広場が存在していた。

 遺跡にたどり着いた人々は、そこで腰を下ろして休息を開始する。

 薄暗く聞きで覆われた密林の行程は、強い緊張感と激しい疲労を人々に与えていたが、視界の取れた石の建物が並ぶこの場所は、それよりもいくらか安心感を人々に与えていた。

 立ち並ぶ建造物を、人々は観察する。


「古びているが、立派な建物だな。一体いつ作られたんだ?」

「あまり破損も見られない。相当な遺跡だぞ、これは」


 口々に言いながら、触れようとはしないまでも、近づいて建物を見上げる。

 感嘆した様子の彼らを前に、エヴィエニスも同じ気持ちだったのか、少し疑問符を浮かべつつ、アダルフを見た。


「騎士の方々たちもああいっていますが、実際この遺跡はどんなものなんですか?」

「うむ。我らも、あまり詳細には知らん。が、何か古代に作られた建造物のようだ。嘘か真か、伝承では、かつてここには亜人や人間が共存して暮らしていて、それを神が統治していたそうだ。この遺跡は、その名残という」


 我らの里には、そう伝わっているとアダルフは言う。

 ただ、そう言いながらも、彼自身その伝承の真偽には懐疑的なようだ。


「真実かどうかは疑わしいが、しかし見るからに古く、にもかかわらず頑丈な作りをしているものだ。ある種の神々しさも感じるな。だから、ここで休むのはよいが、あまり壊さないように気をつけてくれ。ないとは思うが、祟りがあったら怖いのでな」

「分かりました。気をつけます」


 アダルフからの注意に、エヴィエニスをはじめ、騎士たちはしっかりと頷く。道案内をしてもらい、休息の場を与えて貰ったのだから、指示に従うのは当然だった。

 だが、


「うわー。懐かし~い」


 やや上からの陽気な声に、人々は顔を上げる。

 すると、塔のような建物の屋根に、少女が腰をかけていた。

 その光景にぎょっとする者は多かったが、アダルフやシグなどは特に驚いたりしなかった。


「この様式の建物、見るの久しぶりだな~。やっぱり何千年経っても、残っているものね~」


 眉の辺りで手をかざして、ルメプリアは楽しげにはしゃいでいた。

 天真爛漫に足をばたつかせながら、彼女は上から積もった砂埃をまき散らす。


「こら~! そんなところに昇っちゃ駄目でしょー! 早く下りてきなさーい!」

「遺跡を壊す気か! それ以前に、怪我をするぞ!」


 慌てて、下ではマクスブレイズの騎士たちが下りてくるように言うが、どうやってそこまで昇ったのか分からない相手に、手は出せない。

 一方、その様子を、下方からは呆れた様子で眺めているマリヤッタの姿もあった。


「・・・・・・なんだ、あの小娘は?」

「セルピエンテ、の更に北の大陸であるマクスブレイズから来た者たちの一人です。自分を精霊と言いはる、少し変わった子ですね」


 尋ねてきたアダルフに、エヴィエニスが淡々と答える。

 それを聞いて、大人の注意声が聞こえる中で、アダルフは苦笑する。


「まぁ、子供がこの場所ではしゃぐのはある程度仕方がないが。しかし、先も言ったとおり、あまり遺跡を壊すなよ?」

「はい。気をつけます。彼女には、念入りに言って聞かせます」


 真面目な顔で、エヴィエニスは顎を引く。

 その後、皆が手分けしてルメプリアを下ろしたところで、亜人たちは二・三の警告を言い残し、この場を去っていったのだった。

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