47.最後の抵抗者

 燃え上がる街中で、人々の悲鳴がこだましている。

 逃げ惑う人々は、次々と襲いかかる魔物たちに蹂躙され、悲鳴や断末魔をあげながら散っていく。

 彼らは皆、魔物たちの脅威に恐怖し、そして街に残ったことを後悔しながら、息絶えていった。

 悲劇が起こっていたのは、王都から南下していった避難民の集団だけの間のみでない。

 避難をせずに残っていた人々も、また魔物の脅威の被害に遭っていた。


「やめろ・・・・・・やめてくれぇ・・・・・・」


 燃え上がる街、響く悲鳴と怨嗟と怒号に、王城にいる王は嘆く。

 最後まで魔物の群れと戦い、王都を守ろうとした王は、戦いの最中に逃げ延びる事ができず、城で都の落居の様をまざまざ見る羽目になっていた。

 その様子に、王は涙ながらに言う。


「お願いだ・・・・・・これ以上人々に手をかけるのはやめてくれ・・・・・・。命だけは、命だけは――」

「げひゃひゃひゃひゃ・・・・・・駄目だ!」


 泣きながら懇願する王に、その頭を上から押さえつけながら、魔物が言う。

 すでに陥落寸前の王城の中で、王は魔物に捕らえられていた。

 そして命をすぐには奪われず、生きたまま王都の陥落の様を見せつけられていた。


「貴様らは我々に逆らった。ならば、その報いは受けるべきだ! マクスブレイズの王のようにな! げひゃひゃひゃひゃ!」


 鳥形の頭を持つその魔物は、高笑いをあげながら、王を嘲笑う。

 周りの魔物たちも、それに混じって笑っていた。

 その時である。

 王の間にいた魔物の一角が、突然の襲撃によって崩れる。

 炎の波が襲いかかり、同時に数名の人間が、その中へ切り込んでいった。


「なんだ――ぎゃあああ!」


 騒ぎに気づいた魔物の主は、直後突き進んできた者の刺突を受けて、王から引き剥がされる。

 解放された王が驚く中、魔物を貫き倒した者は、王をすぐに立たせる。


「王様、早くお逃げを! ここは我らが引き受けますゆえ!」

「し、しかし――」

「早く!」


 眼鏡をかけたその男は、王に早く逃げるように勧める。

 だが、


「フェルズ! 早くしろ――グハァ!」


 王が躊躇っている間に、苦悶と断末魔が響く。

 決死の活路を開いた者たちだが、すぐにその退路は断たれる。

 魔物たちは迅速に、彼らを包囲にかかった。

 そんな中で、決死隊を汲んだ人々は、なんとか王だけ逃そうと奮起する。

 しかし、そこに一体、強烈な空気を漂わせる個体が現われた。

 鷲の頭に四本の腕を持ったその魔物は、翼を広げ、一気に間合いを詰めると、爪で人々を裂いて倒していく。

 そして、王を一番近くで守っていた眼鏡の男性も、その腿の辺りを切り裂かれ転倒する。


「ぐっ・・・・・・!」


 しかし、それでもその男性は、槍のような杖をふるってその魔物に対抗しようとする。それに対し、魔物はその杖を半ば砕くように打ち払い、男性の抵抗手段を奪う。

 が、その後その魔物は、男性を嬲るようなことはしなかった。

 依然抵抗しようとしたその男を、爪で滅多切りにする。

 男はズタズタに引き裂かれながら、無駄だと思いつつも抵抗をし、しかしながらやがて力を失い、絶息した。

 息絶えた男を、魔物は横へ放り投げ、そして今度は王に向かう。

 そして、そいつは王もいたぶることはせず、爪で斬りかかった。

 王は悲鳴を上げながらその凶爪の餌食となり、血飛沫を上げながら、しばらくして悶死していった。



「魔神殿。セルピエンテの王を討ち取った」


 手にした水晶玉に、鷲の頭の魔物は語りかけていた。

 それに対し、その水晶玉は震えて、音声を発する。


『ご苦労。奴らの抵抗は?』

「なかなか激しいものだった。中には腕利きの者や勇敢な者もいたが、なんとか討ち取った。マクスブレイズに比べ、骨のある奴らだったといえるな」


 そう言いながら、しかしその魔物は嘲笑う。


「まぁ、結局は滅びているのだがな。無意味な抵抗、無意味な死だ」

『そうだな。まぁ、しかしこれは手始めだ。我々の時代のな。そういう意味では、奴らの死は偉大な礎だ』


 通話相手も、そう人間に対して嘲笑する。


『ともかく、お前たちの働きは大魔神様にもお伝えしておく。ご苦労だった』

「はっ・・・・・・」


 頷き、通信が途切れると、その魔物は、自らがたつ王城の上から、待ちを見下ろす。

 そして笑いで肩を揺らす。

 魔物の瞳には、燃え上がる王城と跋扈する魔物の群れ、蹂躙された死骸の山が転がっているのが見える。


 こうして、神聖マクスブレイズ王国に続き、セルピエンテ王国も滅亡に追いやられたのだった。

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