第2話 四大魔王、地下迷宮に挑む!

この世界は、危機に瀕していた。

強大な力を持つ四人の魔王が、それぞれ世界を四分し、支配しているからだ。


氷と冷気を操り、数多くの都市や人々を氷付けにした「北の魔王エグソダス」。



嵐と雷の力を持ち、災害や超自然を操って多くの国を滅ぼした「西の魔王ダランティア」


暴風を操り、あらゆるものをなぎ払う“鳥獣の神”「南の大魔王ボルケイノ」。



そして、大地とマグマを支配する力を持ち、その怒りで大陸をも沈めんとする最強最悪の魔王「東の破壊王ガランディ」。



そんな彼らは、今夜も定番のチャット……もとい、魔王の通信会議に興じていた。



魔「――てなわけでな。

 そろそろうちの迷宮(ダンジョン)も、老朽化が心配になって来たわけよ」


鶏「あれ? 北のとこの迷宮って、そんなに古かったっけ?」


魔「古いよぉ、だってもう築1000年越えたもの」


鰐「マジでっ?! 北さんとこの迷宮ってアレだろ?

 俺らが小さい時しょっちゅう遊んでた」


魔「うん、そうそう」


岩「ってことは、俺らがガキの時点で、もう700年以上経ってたのか」


魔「そうなんよ。

 んで、この前リフォーム会社の営業が来てさ。

 お宅の迷宮、耐震構造に問題ありそうですが……って振ってきて」


鶏「ふむふむ」


魔「なんか良くわかんねーんだけど、このままだとあと200年のうちにでっかい地震来たら、ペシャンコだってさ」


鶏岩鰐「「「 マジでっ?! 」」」


魔「まーそういうわけでさ、せっかくの機会だから、思い切ってリフォームしちゃおうかなって考えてな」


鶏「気になるんだけどさ、北のとこの迷宮、今何に使ってるの?」


魔「しいたけ栽培と、観光名所」


鰐「おい、北の魔王!」


魔「そうは言うがなダランティアくん。

 うちド田舎だろ? んで観光地巡りのルートからも外れてるからさ。

 なんか町起こしみたいなのやりたいって、住民達が相談に来てさ」


鶏「かつては氷の魔王と恐れられた奴が、これまた随分と友好的になったもんだ」


鰐「しかしまぁ、有効活用してるんなら、確かにリフォームは必要か。

 住民や旅行客に何かあったら、大変だもんな」


鶏「迷宮ってさ、本来はその“何か”が起きるべき場所なんでね?」


岩「いやそれ以前にさ。

 エグちゃんの魔城の最上階まで辿り着ける地域住民て、何者だよ?」


魔「まぁ聞いてよ。

 それで迷宮と塔のいくつかを、観光スポットとして解放したんだけど。

 これがまた、予想外の大反響でさ。

 入場料の一割貰ってるんだけど、結構な収入になるんだよ」


岩「一割て……魔王なら、もっと取れよ」


鰐「北さん、結構な収入のとこ、詳しく」


魔「Switc○買えた」


鶏鰐岩「「「 す、スゲェェェェ!! 」」」


魔「しいたけの栽培も、いい感じよ? しいたけ材料にしたお惣菜も売れるし。

 ――って、それはいいんだ!

 本題、入ってもいい?」


鰐「ああそうか、そういや今回のチャットは、相談があるって事だったもんな」



鶏「○witch買えちゃうリア充の頼み事ねぇ」


岩「ボルちゃんひがむな。

 俺なんか、ネ○ジ○Xすら買えなかったんだぞ」


鶏「あれは、東のが“もっと値下がりする筈だから待つ”とか粘ったからじゃん。

 それで在庫切れ起こしてたら世話ないわ」


岩「そ、それを言われると辛い……」


魔「――あの、そろそろいいかな?」


鰐鶏岩「「「 は~い、どぞ~♪ 」」」


魔「まぁそれでな、リフォームするんならどういう風にしようかと思ってさ。

 せっかくだから、よそんとこの迷宮を視察して、参考にしようかと思って」


岩「なんかいいとこ目星付けたん?」


魔「大陸オーデンスのキングダム・ブランディスって国があってね。

 そこのハブラムって都市に、割と最近見つかった地下迷宮があってさ。

 なんか今、そこが大人気ってんで凄く人を集めてるみたいなんだわ」


鰐「あ~そこ知ってるわ。

 友達のリツイー○で動画見た。いいよなあそこ」


鶏「その友達は、一体何者なんだよぉ?」


鰐「え? ああ、大して特別じゃないよ。

 下町で二十年パン屋さんやってる、普通のおっちゃん」


魔「どういう経緯で、そんな人が魔王と友達になったのか。

 そこんとこ、今度じっくり聞かせてくれ」


鶏「それで? 俺達は何をすりゃいいの?」


魔「それなんだが……一緒に、付いてきてくれない?」


鶏「は? その、迷宮の視察に?」


岩「エグちゃ~ん、いくつになったのよぉ?」


鰐「迷宮探索にお供が必要な魔王様なんて、そうそういねぇぞ!」


鶏「しかも、そのお供も魔王と来たもんだ」


魔「いやいや、待ってくれ。

 その迷宮にはな、一人で行くとかえって目立つんだ。

 普通の連中は、複数でパーティ組んでから入ってるらしいぞ?」


鶏「ああ~、アレかぁ。

 邪悪な魔法使いが、Kitty-Guyな王様から護符を盗んで潜ったっていうあそこみたいなもんか」


鰐「学生時代の苛められっ子が、地下一階で幽霊になって出てきて、今度は冒険者連中に虐められてる、みたいな~?」


魔「ああ、そうそう、あんな感じ」


岩「じゃあ、俺達に、冒険者の真似事をしろと言うのか?」


鰐「つか、俺達この姿のままで、そんなとこ入って大丈夫な訳ないよなぁ…

 そこんとこ、どうすんべ?」


魔「それなら問題ない。

 実は、知り合いの業者から払い下げた、全身を覆う特殊な変装スーツがあるんよ」


鰐「へぇ! それは面白そう」


鶏「俺、外見が鶏+蛇だぞ?

 こう見えてもツメタガイの化身だぞ?

 そんなスーツ着ただけで、ごまかせるもんなのか?!」


岩「君、この前の忘年会では、ウマヅラハギの化身とか言ってなかった?」


鶏「実は俺、あと二回変身を残してるんだ」


鰐「あと二回って、これ以上何になるんだよ!

 んで、北さん、そこんとこどうなんよ? マジでなんとかなるの?」


魔「大丈夫、心配ないよ。

 なんせ最近のは、たとえ蠍(サソリ)や蛇や牛や竜やロボットが中身でも、きっちりごまかせるっていう凄い性能なんだぜ!」


岩「サソリ? ヘビ? ろ、ロボット?!」


鰐「あ、俺、なんだかわかった……

 それ、最初から九人居るアレだろ?!」


鶏「日曜日の朝の、子供達のお楽しみタイムのアレかぁ!!

 ――って、ちょっと待てや北の!

 ってことは、業者から仕入れたのって、まさか……」


魔「みんな、現地で合流したら、変身アイテム渡すからそれ使ってー」


岩鰐鶏「「「 本当にソレなんかーい!! 」」」



その後、三時間に渡って続けられた魔王会議は、干ししいたけ一か月分を報酬とすることで、全魔王が合意した。


これより、四大魔王は遠方の地にある地下迷宮へと降臨する。

そして、冒険者をはじめとする大勢の人間共は、恐怖の坩堝に落とし込まれるのである。


恐怖の計画は、今まさに開演の刻(とき)を迎えようとしていた――

 

 

 

 

 

数日後。

大陸オーデンスの王国キングダム・ブランディス。

その主要都市ハブラムに、四大魔王がついに降臨した!




 ヒソヒソ……


  ヒソヒソ……


   ヒソヒソ……



岩「し、視線が、痛ぇ……」


鶏「コケ……な、なぁ北の」


魔「な、なんだい?」


鶏「お前にこの変装スーツを提供した業者さ。

 今度、一族根絶やしにしてもいい?」


魔「業者本人だけにしといてやってよ……」


鰐「しかしまさか、本当にただの一枚布だとはなぁ」


岩「そう見えて実は最新の科学技術詰め込み放題! と思ったらただのサテン生地だったでござる」


鶏「しかも、マスクの目! これゴーグルじゃねぇぞ!

 黒い板に、ボツボツ穴開けてるだけじゃん!」


魔「どう見ても、版元に返還しないで不当に残しておいたアトラクションスーツだねぇ」


岩「い、いやそれよりもさ。

 さすがに、魔王丸出しの俺達が、そのままの姿で酒場にたむろするってぇのは、どうなんよ?

 もっとさ、こう、一気に迷宮の奥まで入り込んでさ」


魔「だって、迷宮の地図もなければ、探索のノウハウもないんよ?」


鶏「そりゃあそうだが、それじゃまず、どうするのよ」


魔「そう思って、さっきガイドを雇ったんだ」


岩鰐鶏「「「 ガイド? 」」」


?「どうも、初めまして」


岩鰐鶏「「「 に、人間キタコレ?! 」」」


?「私、魔道師のザウェルと申します。

 魔王様方に置かれましては以下300文字省略」


魔「なんでも、この迷宮について一番詳しいんだってさ」


岩「あ、ども、よろしくお願いします」


鶏「凄いな、身長5メートルある東のと、たぶん2メートル弱のニンゲンの対比」


鰐「ああ、あの身長差で丁寧な挨拶交わすとこなんか、滅多に見れないよな」


ザウェル「さて、それでは早速参りましょう」


鶏「え? もう行くの?」


鰐「準備とか、色々必要なんじゃない?」


ザ「何をおっしゃいますか。

 魔法強化されたプレートメイルなんかより何倍も強固な外皮をお持ちの皆様が、今更何を恐れる必要がございましょう?」


鰐「そう言われたら、確かに」


魔「でも俺、光の玉使われると闇の衣剥げちゃうんだよなあ」


鶏「あのヤ○オクで手に入れたっていう、どこぞの魔王の中古品?」


魔「そうだけど、あの出品者の大魔王さんえらく親切丁寧でさ。

 思わず、品物届く前に評価入れちゃったよ」


鶏(こいつ、絶対詐欺に引っかかって、最後まで気付かないタイプだ……)


岩「でも今回の目的って、攻略じゃなくて視察でしょ?

 さっと行ってさっと帰ってくればいいんだから、適当でいいだろ」


魔「あ、そうだデジカメのバッテリー大丈夫だったかな?」


ザ「申し訳ありませんが、迷宮内は撮影禁止でお願いいたしますー」


魔「げぇぇぇっ!!?」


鶏「つうか、迷宮内でフラッシュ発光とか、情緒台無しだよなあ」


鰐「そうそう、蛍とか花火見に行って、フラッシュ焚くウマシカは困るな」


岩「それで思い出した! 迷宮内の照明って、どうなってるんだっけ?

 どっかから外部の光が入る構造になってんの?」


ザ「いえ、そんな凝った構造じゃないので、当然真っ暗ですよ。

 だから松明や、魔法の光を使うのがセオリーとなっております」


魔「照明魔法……誰か、持ってる?」


岩鰐鶏(全員、首を横に振る)


ザ「それでは、私が詠唱いたしましょう。

 十分間で30GP(約3万円)となりますが、よろしいですか?」


魔岩鰐鶏(((( た、高えぇぇぇぇぇっ!! ))))


しかし、彼らは仮にも魔王である。

下等な人間如きの要求に応えられないようでは、威厳が保てないのだ。

やむなく彼らは、必要経費で落とすことにして、魔道師の要求を飲むことにした。




――迷宮内。


魔「ひぃぃ、光源代、高過ぎっす!!

 ここまでで、既に15GP(約15万円)飛んでるんですけどー!」


鶏「しかし、マジででっけぇな、この地下迷宮!

 通路の幅なんか、うちの迷宮の三倍以上はあるぜ!」


岩「耐震構造もしっかりしてる感じだなあ。

 おい魔道師よ、この迷宮は何年モノだ? 適度に修繕とかしてる?」


ザウェル「いえ、修繕は全くしておりませんね。

 この迷宮は、2,700年物となります」


鰐「それはすげぇ! じゃあ、よほどしっかり作られてるんだろうね」


魔「うちらの手持ちの迷宮なんか、最低でも十年ごとに業者入れてメンテせにゃあならんからね」


ザ「失礼ながら、随分旧式な構造の迷宮をお持ちのようでございますね?

 今の迷宮は、修復魔法の自動発動でオート修繕がトレンドですよ」


魔「トレンドて……えっ、でもそうなの?」


鰐「今のって、ここ2,700年物って言わなかったか」


鶏「それにしても、ここは冒険者めっさ多いなぁ。

 さっきすれ違ったので、もう十組目くらいだよ」


岩「皆、ちゃんと挨拶していくんだよな。礼儀正しくて感心だよ」


ザ「ここは一日、平均300組前後のパーティが出入りしております。

 のべではありますが」


魔「……一年平均で同じ数の、うちの田舎迷宮とはえらい違いだ……」


鰐「あ、あそこでモンスターと闘ってるパーティいるよ?」


岩「何かの縁だし、助けてやるかい?」


ザ「止めといた方が賢明かと存じます。

 助けが入ると、その分一人当たりの経験値が減りますからね」


鶏「け、経験値?!」


岩「ここの連中、経験値でレベルアップすんのかい!」


ザ「あの、如何にもついこの前冒険始めました的なド素人パーティには、たとえ誤差に等しい極少経験値でも、かけがえのない物ですからね」


魔「お? お、おう……」


鰐(な、なんかいきなり、発言が黒くなったなコイツ?)


鶏「でもわかるなあ。あと何回戦闘したらレベルアップとか考えてる頃は、ほんの1や2の差で経験値足りてないと、くうぅ~ってなるもんな」


ザ「さすが魔王様、下々の者の感覚まで把握済みとは、さすがにございます」


鶏(……ゲームの話のつもりだったんだが……)


岩「つか、俺達の前にもモンスター出てきたよ?

 ――って、ありゃ? 逃げちゃった」


ザ「そりゃあ、迷宮第一階層に出てくるような雑魚からすれば、魔王様四名は、脅威中の脅威でございますから」


鰐「うん、まぁ、そうか、そうだよな」


鶏「高校デビューくらいの坊や達が、いきなりヤクザにメンチ切られるようなもんか」


岩「凄いたとえを持ち出して来たな、ボルちゃん」


魔「あのモンスター共は、どうやって迷宮内に住まわせてる?」


ザ「そうですね、勝手にどこかから入り込んで来たり、この中で自然発生したりしますが」


鶏「し、自然発生?」


ザ「迷宮内に紛れ込んだ小動物が、放射能の影響で巨大化したり。

 長い間の暗闇の生活で、肉体が変貌してしまったり。

 或いは、迷宮内で行き倒れた冒険者が――」


鶏「今さらっと、滅茶苦茶怖い事言わなかった?!」


鰐「うわ、怖っ。ここ、ゾンビとか出るんだぁ」


ザ「そうですね。

 たまに地上に抜け出た者が、リアル死霊のえじき開始させたり」


鶏「わ、わかった! わかったからストップ!」


ザ「特に強力な魔物などは、自動召還魔法陣で呼んでいますね」


鰐「ああ、やっぱそれ……嫌な事思い出したわ俺」


鶏「六十年前に買ったストックが、仕様不備品だったんだっけ?」


鰐「そう、敷島魔法陣株式会社の奴」


ザ「し、敷島? ……ブッ」


鰐「おい! 魔道師! なんか文句あるのか?!」


ザ「はい? 私がどうかいたしましたか?」


鰐「今! 思いっきり吹いてただろ!

 俺の事あざ笑ってただろ?!」


ザ「とんでもございません、魔王様に対して、そのような……ブフォ」


鰐「ホラまたぁっ!!」


ザ「いやいや、今の時代はメーカー品よりも、自作の時代ですよ」


岩「自作って、召還魔法陣の?」


ザ「左様です。今ならアキババラのショップとかでも格安でパーツ売ってますし、初心者向けの専門書も出てますから、かなりお安く、かつ高性能なものが作れますよ」


鶏「なんか、自作PCみたいなこと言い出したよこの人」


ザ「敷島は論外として、召還魔法陣なんかいちいち購入していたら、運営はやってられないですよ?

 メーカー修理に出したら高くつく上に、データみんな消されてしまいますからね」


岩「データって、何のだよ?」


ザ「魔法陣自作の基本は、特殊強化鋼と液体鉛の調合ですね。

 混合比・56.2対43.7で、僅かな狂いもNGです。 

 そこに鼻ク○を加えて、203度の熱を加えつつ伸ばしたものを――」


鰐「ん?! それ、どっかで聞いたような……」


魔「あっ、それ! 四菱ハイなんとか云う、鉛筆の作り方だろ!

 昔、コ□コ□コミック読んでたから、知ってるぞ!!」


岩「エグちゃん、それ、伏字になってねぇ……」


鶏「と、とどろけナンバーワン、だっけ?」


ザ「とにかく、何でも自動化させておくと便利ですよ、ということです」


岩「そりゃまあ、確かにそうだな」


鰐「なあ、ところで俺達、さっきから同じ所グルグル回ってない?」


鶏「あ、本当だ。ここの壁の大きなシミ、さっきも見た」


ザ「お気づきになられましたか」


魔「えっ、どういうこと?」


ザ「皆様は先ほど、迷宮内にこっそり仕掛けられていた、永久回廊のトラップに引っかかりました。

 ここは要所がテレポーターで魔法的に繋げられているので、曲がっても直進しても、延々と同じ所を巡らされることになります」


鰐「おい! そういうの先に言えよっ!」


ザ「しかし、皆様は迷宮の視察に訪れたとのことでしたので。

 それでしたらやはり、迷宮内のデストラップも是非体験して頂きたいと」


鶏「いらんわあぁぁぁ!!」


岩「待てよ、移動の呪文も、位置確認の魔法も使えないぞ!

 効果が打ち消される!」


ザ「左様でございます、あらゆる補助呪文は、この回廊内は使用不可となっております」


魔「あ、でも、スマホのアンテナは三本立ってるし、GPS――」


ザ「チッ」


 ――グシャ!


魔「あああああ! 俺のスマホぉ!!!」


岩「コイツ今! 弾き飛ばして、踏み潰したぞ?!」


ザ「とんでもございません、暗闇で足下がおぼつかないものでつい」


鶏「さっきからそこで煌々と光ってる、魔法の光源はなんだよ?!」


ザ「申し訳ありません、破損したスマホの代金は、光源提供費より引かせて頂きますね」


鰐「絶対、買い叩くつもりだろ貴様っ!!」


ザ「それより、よろしいのでしょうか?

 早くこの回廊から抜け出さないと、光源提供費がどんどんかさみますよ?

 それに、ホラ――」


魔「ぎええっ?! じ、人骨っ?!」


鶏「これは洒落になっとらんわ」


岩「もしかして、これって……」


ザ「はい、この回廊を抜け出せずに、行き倒れたパーティのものですね」


鰐「じじじ、冗談じゃねぇぞこんちくしょう! 出せ! 早よここから出せ!」


鶏「あ~あ、西の持病が出たよ?」


岩「実家の迷宮の中で、身元不明の亡骸見つけたんだっけ?

 まだ子供の時だし、そりゃあトラウマになるわなあ」


ザ「失礼ですが、皆様、本当に魔王様なのですか?」


鶏「コケーッ! そうだよ、悪いか!」


鰐「いいから、それより、出口いぃぃぃぃぃぃ!!」



――半日後。



魔「――も、もう無理……おいガイド、頼むから助けて!」


ザ「おや、魔王様ともあろう方々が、たった半日でギブアップとは。

 丸三日以上粘って、脱出に成功した人間のパーティもいるんですよ?」


魔「そうじゃなくて! これ以上、光源代払えねぇって言ってるの!!」


ザ「あ、そういうことでしたか」

 いきなりですが、ここが隠し扉になっております」


――ガチャッ


鶏「コケッ?! ゆ、床が開いた?!」


ザ「脱出口が左右の壁にあるだろうという、冒険者の心理の盲点を突いた斬新な仕掛けです」


鰐「うっわ、えげつなぁ」


岩「良く見たら、蓋にあたる部分に、“ここ出口”って書いてあるじゃん」


鶏「フォント6くらいの、すっげぇちっこい字でな」


鰐「しかしまぁ、トラップとしては確かに参考になるなコレ。

 人的被害、相当出そうだけど」


鶏「被害って、人間共の迷宮内遭難なんて、基本俺達には関係ないじゃん」


鰐「バカ言うな、誰が後で掃除するのか、考えろよ」


鶏「コケ……そうだった!」


魔「なまんだぶ、なまんだぶ……

 ここで朽ち果てた冒険者達よ、迷わず成仏しろよ」


ザ「本当に魔王様なんですか? あなた方は」




――更に半日後。


魔「うっわ……どっぷり疲れた」


ザ「皆様、大変お疲れ様です。

 上層階までではありますが、一応代表的な迷宮の仕掛けや構造を、お伝えさせて頂きました」


魔「いや、まあ、予算に余裕があればさ、もっと下の階も見たかったが」


鰐「四階では穴に落っこちるわ、何故か湖まであって溺れかけるわ」


鶏「溺れかける鰐なんて、滅多に見れない光景だったな。ゲラゲラゲラ」


鰐「カァァァァッ!! てめぇ、焼き鳥にすんぞ!」


岩「モンスターに追っかけまわされるわ、やたら強いパーティに問答無用でケンカ売られるわ、もう散々だったわい」


ザ「それでもなんだかんだで斬り抜けたのですから、さすがは魔王様です。

 いかがです? 皆様ご所有の迷宮リフォームの、参考になりましたでしょうか」


魔「あ、ああ、一応は。

 それにしても君、人間の癖に、やけに迷宮の構造に詳しかったね」


鶏「そんなに沢山、この迷宮の探索をしたってわけ?」


鰐「確かにこいつ、俺達の姿見ても、何が起きても、一切顔色変えなかったもんな」


岩「魔道師ザウェル、君は一体何者なんだい?」


ザ「はい、実は私、この迷宮の主(あるじ)なんです」


魔「――へ?」


鶏「あ、主って……?」


ザ「お聞きになった事はありませんか?

 迷宮には、邪悪な魔法使いが住んでいて云々、とか」


魔「それって、ロバートさんとかアンドリューさんとかの、ああいう奴?」


岩「ダンジョンマ○ターも、そのパターンだったな」


ザ「洋館物のエロゲは、ラストで館が炎上するのが決まりみたいな、

 ひとつのセオリーみたいなものです」


鰐「お前、守備範囲広いな……感心するよ」


鶏「って、それがお前さんだっていうのかい?」


ザ「はい、そうです☆」ペカリン!


岩「うわっ、満面の笑顔だよ! しかも今、サンリ○みたいな星飛んだ!」


鰐「ひええええ、こんな低階層でラスボスに逢っちゃったぁ!

 タスケテお母ちゃん!」


魔「い、命ばかりは、お助けを~っ!!」


ザ「あの~、もしもし?

 別に、迷宮の主だからって、取って食おうってわけじゃないですよ?」


魔「そ、そうなの?」ブルブル


ザ「だって、皆さんよくお考えください。

 迷宮の最下層で、いつ来るかわからない冒険者をただじっと待ち続け、他に特にやることもなく、無駄に時間を過ごすなんて、よほどの暇人か年季の入った引き篭もりでもない限り、やってられませんでしょう」


魔「た、確かに!」


鶏「そ、そうだなぁ、俺もラスボス室勤務の時は、暇だから携帯ゲーム持ち込むし」


鰐「俺も俺も。この前光○船手に入れたから――」


岩「何その激レアハード! 今度見に行っていい?」


ザ「あなた方……」


魔「それで、ラスボスの君は、普段どうしてるの?」


ザ「はい、ですから、こうやってガイドをやって一般人から小銭を巻き上g……ゲフンゲフン、迷宮を案内しているわけです。

 ついでに、迷宮内の破損や目の届かなかったトラブルに気付ける場合もありますからね」


鶏「今、なんか言ったね! さらっとなんか言ったね!!」


ザ「ところで魔王様、今回のガイド費用の清算なのですが」


魔「ぎくっ」


ザ「ざっと計算しますと、光源提供費が24時間分で4320GP(約432万円)となりま~す」


魔鶏鰐岩「「「「 ゲ、ゲゲェェッ?! 」」」」


ザ「ここに、本来のガイド代と、トラップ脱出補助代、その他事前危険報告代……その他もろもろ含めまして、総額5192GP(約519万2千円)となりまーす」


魔「グアァァッ?! ぼ、ぼったくりィィィィィ!!」


ザ「何をおっしゃいますか、魔王様。

 これくらい、魔王ともあろうお方なら、はした金でございましょう?」


魔「か、簡単に言うなぁ!

 うちの魔城の、二年分の運用費より高いじゃないか!」


ザ「うわぁ、やっす」


鶏「この野郎、俺達を田舎の魔王だと思って、足下見てやがるな!」


鰐「しょうがねぇ、今更だがここで魔王の本領発揮!

 こいつを闇の彼方に沈めてやろうじゃあねぇかぁ!!」


岩「覚悟しろ、このペテン師野郎!」


ザ「お待ちください、皆様。

 ――ちなみに、今居るこの階層は、地下五階。

 以前、とある冒険者がバカをやりましてね、四階に上がる階段がぶっ壊れているんですよ」


魔「そ、それがどうした!」


ザ「この五階層へは、特殊なテレポートポイントを複数経て辿り着いております。

 皆様、私をここで手篭めにした後、ちゃんと元来た道をお戻りになられるのですか?」ウフン♪


鶏「だ、誰が手篭めだぁ! コケェェ――ッ! しなを作るなぁ!!」


魔「つまり、お前がいないと戻れないと……」


岩「くっそ、ハメられた! こいつ、とんでもねぇ詐欺師だ!!」


ザ「とんでもございません、私はただの、迷宮支配者でございます」


鰐「それ、充分“ただの”じゃないけど」


ザ「わかりました魔王様。

 それでは、ガイド代を一気に百分の一まで減額して差し上げましょう」


魔「え? な、何、突然?!」


鶏「うっわ! こいつ、めっちゃ邪悪な笑み浮かべてる~!!」


ザ「実はですね、私、迷宮の主などやっておりますが、この通り見た目が普通過ぎますので、今ひとつ迫力に乏しいと申しますか、ラスボスとしての風格や迫力、威厳などが足りておりません」


岩「ま、まあ、確かに、そこらの酒場でたむろしてる冒険者の一人みたいに見えるもんな」


ザ「まあ、それもやってるんですがね」


岩「あ、そうなの」


魔「ホント暇なのね、君」


ザ「そこでですね、ガイド代を99%引きする代わりにですね。

 皆様には是非、私の代わりに迷宮のラスボスを護るガーディアン役となって、この迷宮内各所で、君臨して頂きたいと」


鶏鰐「「 ちょっと待てぇ! どういうことだそりゃあ?! 」」


ザ「いえ、ですからね、ここで粘って頂いて、冒険者が来たら適当なタイミングで、


 【我は迷宮の主を守護する者。

  我を倒さずして、この先へ進む事叶わじ】


 とか、そんなノリの発言を適当にコイて頂いてですね」


鰐「それって、2でいうところのアトラスとかベリアルとか、バズズみたいな?」


ザ「Exactly(そのとおりでございます)!」


鶏「そんなん、迷宮の中に居る別なモンスター共にやらせろよ!」


ザ「それがですね、コワモテ系の連中は、先日有給を取りまして」


岩「有給ってなんだよおぉぉぉぉ!!!!」


ザ「大丈夫ですよ、下の階に行けばコンセントありますので、スマホの充電も出来ますから」


鰐「アンテナ既に立ってないんですけお?! wi-fiあんの?」


ザ「ありますが、Macアドレス登録に必要なPCが、地下十階にあるもので」


岩「wi-fi完備の地下迷宮って、なんかイヤだな」


魔「ウガアァァァァァァ!! いやだぁ! ネットできない生活なんてイヤだぁ!」


鶏「叫ぶの、そこなん?!」


ザ「じゃあ、それでは今後とも、よろしくお願いしますねー☆」


魔鶏鰐岩「「「「 こ、コラァ!! 俺達を置いて行くなぁぁぁぁ!!! 」」」」



四大魔王が、迷宮の地下深くで、一斉に甲高い悲鳴を上げる。

魔王達の、限りなく終わりの見えない退屈な日々は、今ここから始まるのである。



大陸オーデンスの王国キングダム・ブランディス、主要都市ハブラム。

地下迷宮の夜……じゃなくて暗闇は、まだまだ続く――






魔王軍団、地下迷宮に挑む! 完

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我等、世界を支配せし四大魔王!! 敷金 @shikikin

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