第1話 かつての敵

 二〇二〇年、東京オリピックを一ヶ月前に控えた日本・東京。

 都内某所に建てられた“異能力者研究所”という一般人ならば誰も近寄らない場所がある。

 異能力という名ではあるが、その正体は『スピリット』という未知の存在によるものである。

 霊についてはいくつかの仮説が存在する。

一、『霊』は本体(宿主)の背後に表れる。

二、それぞれの個体ごとに特殊な能力を持っている。

三、能力は一つまでだが、成長するものもいる。

 そんな霊についての研究を行う所内の廊下をハイヒールで走る女性の姿がある。

「所長、鎖上凛子さがみりんこ失礼致します。緊急事態です」

 この研究所の長がいる部屋に駆け込んだ彼女を慌てた様子で迎えるのは初老の男性であった。

「な、何だね鎖上君。また誰かが霊の力を暴走でもさせたのかい?」

「いえ、遠方に向かっていた相川舞夜あいかわまやからの連絡が途絶えました。電話が切れる直前の様子からして、何か大きなトラブルに巻き込まれている様子です」

 彼の顔に困惑の色が伺えた。

 俯いて少ししたところで、凛子を見上げる。

「じゃあ、君が助けに行くのかい?」

 いいえ、と彼女は首を横に振った。

 片手に持っていたファイルの中から書類を机に置く。

「この四人を解放し、向かわせたいと思っています。何か問題があった際の責任は全て私が取らせていただきます」

 所長は並べられた書類を眺める。

 四人分の書類を見て、彼は無茶だと返答し、机に置いた。

 しかし、頭を抱える彼に時間がないことを凛子が告げると、しばらくは唸っていたが、観念したように大きな溜め息を吐いた。

「……相川君が正式な研究員ではないにも関わらず遠方に行く費用を出したのも私だ。私にも責任がある」

 彼は書類全てに判子を押す。

 凛子は深く頭を下げ、早速と言わんばかりに所長室を後にした。

 研究所内には霊の能力を使い、違法行為をした者を収容する設備がある。

 更生施設兼霊の能力を実験するサンプルとしても多数の霊使いを収容しているのだ。

 その場所の最深部、最も危険と認識された者ばかりを集めたエリアが存在する。

 IDカードを操作パネルに当てると、電子ロックの解除される音が響く。

「出なさい」

 中に入るとベッドの上で眠る、両手を手錠で繋がれた少女がいた。

 以前まで長かった髪を切り、ショートボブになった金髪の彼女はかつて敵であった存在。

「何? もう私はここから出られるのかしら?」

 薄っすらと笑う彼女に凛子は厳しい視線を向ける。

「上手くできれば、釈放よ」

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