第2話

その子は、静かな子だった。

産まれたときから周りの顔色をうかがっているような、そんな泣き方をした。

でも、それは大抵泣いてはいけない時で。

妻は困った顔をしてあやし、周りの者たちは怪訝な顔をしたが、自分はそれを憎めず、微笑ましさすら感じて。

そんな赤ん坊だった。


話はかなり時間を戻して、自分が若い頃のことになる。

ややこしいが、上手い説明の仕方が見つからない。

大学に入る手続きをしていた時だったと思う。

戸籍謄本が必要だと言われ、取りに行くのだと父親に言ったら、父の顔が急に変わった。

お前は忙しいだろう、自分が取りに行く、そんなようなことを言われた。

なんとかして自分に取りに行かせないようにしようとしている、これは何かおかしい、と感じ、急いで役所に走った。

結論から言うと、自分は養子だった。

子供の生まれなかった名家に、赤ん坊の頃に養子として迎え入れられる。

昔ならよくあったような話だ。

親とはなんの血の繋がりもなかった。

今までの人生を思えばおかしかった点など幾らでもあっただろうが、まさか自分がそうだとは思いもしまい。

雷に打たれたような気持ちだった。

裏切られたとも少し違う、ただ、親のことは信用できなくなっていたように思う。

そんなこともあり、親とは少しずつ疎遠になっていた。

産まれてからずっと騙されてきた気持ちで、嫌悪感すら抱いていた。

自分が結婚してからもそれは変わらず、近くに住んでいても顔を会わせることすらほとんどなかった。


話を戻そう、かなりそれてしまった。

そんなこともあり、端的に言うと両親とは仲が悪かった。

長女が産まれたとき、事件は起きた。

まだ、歩くこともままならないような頃だ。

妻が目を離したすきに、親たちが娘を自分の家に拐っていった。

急いで取り返しに戻ったが、話が通じない。

自分達には血の繋がった子供がいない、自分の子供を育てる喜びを感じたことが無いので、自分達に育てさせてほしい、お前たちはまた産めばいいではないか。

そのようなことを言われたように思う。

血は繋がっていなくとも、仮にも自分の息子である者に向かってそのようなことを言うとは笑うこともできない。

そんなことを飲み込むことなど出来るはずもなく、力ずくで娘を取り返そうとした。

途中まで連れて帰ることはできたが、あと少しのところで追いつかれ、娘の腕を掴まれた。

無理やり奪おうとするので、痛がって娘は泣いてしまった。

たじろいでしまった。

泣いている。

我が子。

思わず手を離してしまう。

どこかで聞いたことのあるような話だ。

昔話と言うのはいい得て妙なものなのだろうと思う。

ともあれ、自分は手を離してしまい、娘は自分の親たちが育てることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祖父 あいろん @ironhero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る