絆創膏

「……痛い」

「慣れないことをするからだ」


キッチンで、私の指にできた小さな切り傷に、消毒液を含んだ脱脂綿を押し当てる彼。

容赦なく傷をこする彼を私は少し怨みがましい目で見た。


「染みるんだけど」

「悪いのはお前だろう」

「だって……」


明け方、何故か早く目が覚めた私は、お腹が空いたから早めに朝食をとろうとキッチンに立った、のだが。

サラダを作ろうときゅうりを切っている途中で、思いきり指を切ってしまったのだった。

あーやっちゃった、と、血の流れる指を眺めていたところを彼に見つかって、この状況。


「だいたい、何故出来もしないのに自分でやろうとする。腹が減ったなら俺を起こせばいいだろう」

「だって朝早かったし。迷惑かな、と」

「朝からこんな手間をかけさせておいて、今更か?」

「ぅ……別に……こんな小さな傷、舐めとけば治ったのに」

「……ほぅ」


彼はカタンとピンセットを置くと、私の指を自分の顔に近づけた。


「ちょっ⁈」

「舐めれば治るのか?」


ぺろりと出された赤い舌。

顔が赤くなるのが分かる。

私は慌てて手を引いたが、彼に掴まれたその手はびくともしない。


「ご、ごめんなさい! 普通に治療して!」

「最初からそう言えばいいものを」


彼はふんと鼻で笑うと、ぺたりと絆創膏を貼りつけた。


「次からは怪我をする前に起こせ。いいな」

「……意地悪……ありがと」



『絆創膏』



指に巻かれた、貴方の、不器用な優しさ。

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小さな恋のお話 那玖 @naku

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