あなたが座りたい人間はどんなタイプ?

ちびまるフォイ

サイレント・プリーズ

「これから独り暮らしを始めるあなたには

 最新のより、人間家具のほうがおすすめですよ!」


店員に案内されたのは今人気の人間家電の売り場。


「人間家具なら普通の家具と違ってメンテナンスも不要!

 さらに、お金を一度払えばいつでも人間交換が可能です!」


「でもお高いんでしょう?」


「それが、普通の家具と同じくらいの値段なんですよ!

 いかがですか! 寂しい独り暮らしのおともに、人間家具!!」


なかば押し切られるような形で人間家具を購入した。

人間椅子に、人間テーブル、人間ベッド。


人間家電というのもあり、店員の口車に乗せられるように購入してしまった。

人間冷蔵庫や人間洗濯機、人間掃除機などさまざま。


「まぁ、人間家具をはじめにご購入されるのは何かと警戒しますから

 せっかくですし体験なさってください」


人間家具体験コーナーには人間椅子が置かれていた。

人の上に座るなんてなんだか申し訳ない。


「し、失礼します」


膝の上に腰掛けると、これが意外と心地いい。


「どうです? 悪くないでしょう?

 人間家具というからには、ちゃんと家具らしさを保つために

 クッション性を追求した素材を……あ、寝てますね」


目が覚めると、人間ベッドの上だった。

たまっていた疲労もすっかり取れている。


「それじゃ、人間家具は指定の住所に向かわせますね」

「お願いします」


人間家具のいいところは引っ越しの手間が劇的に少ない。

独り暮らしの部屋に向かうと、すでに人間家具は待っていた。


「これから、よろしくお願いします」


「あ、君だけ?」


「はい。人間家具といっても1人1家具というわけでなく

 複数の家具を兼用したりするんです」


「ふ、ふーーん……」


わざわざオプションで人間家具の指定を若い女の子にした。

追加料金を払ってでもハーレム気分を味わうつもりだったが、

家具や家電につき1人というわけでなかったのは誤算。


「ほ、ほら! 君一人だけじゃ負担が大きいだろう!?

 やっぱりほかの人間家具も呼ぶことにするよ!」


「はぁ……まあいいですけど」


追加料金をはたいて、若い女の子の家具たちが到着した。


これからこの子たちの上に腰掛けたりするなんて、

自分の中にあるいやらしい征服欲が満たされそうでたまらない。


「うはははは! 買ってよかった人間家具!!」


女の子たちは俺の尻に敷かれ、テーブルとなり、時に家政婦のように働いた。

男の一人暮らしなのに気分はまるで王様だ。



美人は3日で飽きるという言葉がある。

家具に飽きるのはそれよりもずっと早い段階だった。


「ええ!? 人間家具をチェンジしたい!?」


「はい、できませんか……?」


俺の申し出に店員は驚いていた。


「だって、ご購入の際にわざわざ高い追加料金を払ってですよ

 そこまでして若い女の子家具をそろえたのに、それをチェンジだなんて!」


「逆に気を使うんですよ……。

 部屋に女の子がいると思うと意識してオナラもできないし

 向こうは向こうで、こっちが変な使い方しないかって警戒するし」


「それで、次はどういった人間家具にするんですか?」


「とにかく、こっちが気を使わないようなタイプでお願いします」




しばらくしてやってきたのは、

ビルのトイレとかを掃除してくれてそうなやさしいおばちゃんだった。


「これからよろしくねぇ。若い子じゃなくて残念だった?」


「あ、いえいえ。むしろちょうどいいです」


これなら普通に生活できそうだと安心した。

なんなら向こうからオナラしてきそうな空気さえある。


おばちゃん家具との生活がはじまった。


「この部屋汚れてたから一緒に掃除しといたよ」


「えっ……。俺の本は!?」


「捨てちゃいないよ。ちゃんとこっちに並べておいたから」

「いや、それじゃ本の背が日焼けするんだって!!」


おばちゃん家具との共同生活は辛かった。

家具としては超一流で、与えられた家具の仕事だけでなく

他の家具としても大活躍するものの、その代償がでかい。


「あんた、いつまで起きてるんね。明日も仕事でしょ?」

「そんな栄養の偏る食事ばっかりでどうするの」

「お風呂入れておいたから、早く入ってきな」


「あーーもう!! チェンジだチェンジ!!」


なんでもかんでも口をはさんでくる家具に限界が来てしまった。

店員はまたかとうなだれる。


「今度もダメだったんですか?」


「話しかけられすぎて今度は逆に落ち着かないんですよ。

 それに勝手にいろんなことをやってくれるし」


「いいことじゃないですか」


「管理されてるような気分になるんですよ!!」


「それじゃ、無口な人間家具にしましょうか」


届いたのはおじさん家具だった。


「ど、どうも……」

「………」


店員の言うようにおじさん家具はほとんど口を開かなかった。

何か不満があるのかいつも難しい顔をして、家具に徹していた。


「なにか、飲みますか……?」

「……」


「今は休憩していいですよ?」

「…………」


「名前、聞いてもいいですか?」

「……」


おじさん家具は即日チェンジとなった。



「今度は何がダメだったんですか?」


「気まずすぎるんですよ!!

 一緒に同じ部屋にいるのにまったくしゃべらないんですよ!

 沈黙が重すぎて辛いわ!!」


「家具なんだし、無口なのは当然でしょう。

 それにあなたが求めたんじゃないですか」


「息が詰まりそうなんですよ!」


「そんなんじゃ結婚できませんよ?」


「ほっとけ!! もう人間家具なんてまっぴらです!!」


人間家具コーナーから離れて、最新家具や家電コーナーに向かった。

それからしばらくして、最新危機が家に所狭しと並んだ。


「はぁ、やっぱり人間家具なんてダメだな。

 独り暮らしの寂しさを紛らわせられると思ったけど

 静かなほうが俺には向いているな。うん」


やっと誰にも気を使わない空間を手に入れた。

誰からも干渉されず、誰にも干渉しないプライベート空間。


これこそ、俺の求めていたエデン。


「もう誰にもこの静寂は邪魔させないぞ!!」


俺が誓った瞬間、



「お湯がわきました!」「ご飯の用意ができました!」

「そろそろお休みの時間です!」「部屋を掃除しています!」

「賞味期限が近いです!」「洗濯を開始します!!」

「トイレを洗浄します!」「テーブルを除菌中です!」

「カーテンを閉めます!」「電気をつけます!」

「玄関のカギをかけました!」「換気扇を回します!」

「布団が温まっています!」「視聴予約番組が始まります!」



 ・

 ・

 ・


数日後、持っていくと店員は驚いていた。


「なんで、この最新家具や家電たちは、

 音声機能をピンポイントでのきなみ破壊されてるんだい?」


「……静寂を作ってくれる家電をください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたが座りたい人間はどんなタイプ? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ