皮膚の色

しろながすくじら

2018年5月25日

あつい。

今日もいつもと同じ生活が始まった。

「自分には夢がある!」「一度の人生だからでかいことをして楽しく生きてやる!」

そんなことを心に決め上京してから2か月。

自分の決心が人並みであることに気づき始め、社会の構図を知り、その歯車の一部に身体が変化し、自分も環境も固まり始めた。

朝6時に起きる。朝ご飯を食べる。出勤。帰宅。入浴。就寝。

このループの中で、人はある種の自由意思が制限され、使命感によってそれを肯定し始めるようになり、思考が鈍る。そして身体は硬直し始め、機械音が聞こえ始める。

この生活がずっと続くなんて死んだも同然なのかもしれない。

おわり。


なーんて小難しいことを考えている自分に酔っていることすらも人並みなことに気づいた瞬間、顔に熱がこもる。額に汗がにじむ。スーツのポケットから、卒業のプレゼントでもらったハンカチで汗をぬぐうと少し社会人になった気がした。


ミーンミーンという蝉の悲鳴は未だ聞こえないはずなのに、なぜか夏の音がする。車の排気音、子供の遊ぶ声、異国の地にいることすらも感じてしまう。摩訶不思議アドベンチャー。

太陽に向かって目を閉じる。眩しすぎて直視できないのは、他人の青春を見ている感覚と似ているかもしれない。唯一身体の内側から見える肌の色、赤に寄った橙。「ヘモグロビンの赤だろうか」と考え始める。

まだ死んではいない、少しだけ生きているという気がした。


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