梟首隊

安良巻祐介

 

「正午です。お昼の時間です。町の皆さんは元気にあいさつをかわしお昼の席に着きましょう。」街頭ラジオが平坦な声で呟く下で、裸身に白い布を巻き付けた咳団ガイダンの一群が、街のメインストリートをぞろぞろと通ってゆく。みんな注意したいが、行き遭うとこれ幸いとばかりにゴボゴボゴボと雑言飛沫を飛ばされるから誰も物申せない。メインストリートには他に人影はなく、みんな家の中に引きこもってやり過ごしているのが分かる。

 誰がいつ頃考えたのだか、非常にやりやすい開祖開教形式が発案され出回り始めてから、民間宗教の乱立が流行り病となった。それも見慣れた古めかしい神仏のまします既存の宗教系統ではない、どれもこれも根も葉も火もないところへ怪しげな煙が立って、現代の個々人の思想に則り日曜大工のごとく作り上げられた、新興宗教どころか即興宗教だ。そんなものがあちこちで自然と芽を吹くように生まれては、困ったことにどうやってだかどれもこれもある程度の信徒を得て体裁を整え、数日もすればいっぱしの顔をしてお題目を唱えおかしな格好をして動き始めるから、今では常に百を割らないくらいの数が安定し、野犬や狐狸のような対策カリキュラムが組まれるほど、日常に見慣れた存在になってしまった。

 さて今、通りを群れなしてゴボゴボと啼きながら水得た魚群の態で進んで行く咳団の行く手で、遠吠えのような砂笛が鳴った。そうして公道と繋がる路地の向こうから、揃いの耳紘帽みみひろぼうをかむり滑服なめらふくに身を包んだ政府の梟首隊が現れて、咳団を取り囲んだ。威嚇なのかいっせいにゴボゴボゴボボボと声を高める咳団であったが、ふくろうの連中はまるで意に介さずに雲の陣形を取って白布の群れとの距離を詰め、形式的警告を二、三口にしてから、相手がそれに答えるより早く、手に手に携えた討棒で打ちかかり、あっという間に信徒の大半を殺してしまった。ごたごたに掻き混ぜられて一緒くたに転がった白布の塊の間から無数の手足が突き出していて、一見すると悪戯好きな洗濯物のお化けが叩き伏せられて地面に伸びているような、不気味でいてどこか牧歌的な光景であった。ふくろう達の掲げた「征夷」の旗印が、午後を告げるラジオを背景にして白布の上へ真赤に翻る。町の家々から人々が顔を出し、潰れた宗教団や赤い旗を見てあれこれと雑談している。信徒達の顔というのはこちらには見えないので、あまり同胞が殺されたという感じがせず、だからなのか、昔話の絵本を読み終わったような雰囲気のまま、またいつも通りの生活に戻っていくらしかった。

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梟首隊 安良巻祐介 @aramaki88

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