三場



 メドゥーサを連れ帰り、二週間が経とうとしていた。相も変わらずデジレ以外とは口を利かず、ミルタのヒステリック攻撃にも無関心。バティルドが根気強く話しかけるが右から左。

 そんなメドゥーサが、自らの意志でドアを開けた。屋外で昼間の仕事をしていた全員が入口に立つ少女に注目する。

「……―――」

 鈴の鳴るような、愛らしい声が一面に響き渡る。



ゆりかご揺らす優しい御手みて

まだ眠りたくないと

だだをこねるは赤子

ふわり ゆらり揺蕩うは

夢へといざなう花の香りか

あぁお母様

あぁお母様



「なん、で……」

 デジレは硬直する。



金糸雀カナリアがささやく

ドゥシャの地に降り立つ

女神に捧ぐは花

くゆら ふらり揺蕩へよ

あぁお母様

あぁお母様



 メドゥーサが歌っているのは、祖国ドゥシャの子守唄。

も聞こえてきた。乳母と別室で泣きながら眠った、あの時に聞こえてきたのはこの歌声。

「綺麗な声ね」

バティルドがうっとりした表情で話しかける。

デジレは戸惑いながら問いかける。

「気づかないのか?この声……」

「え?」

「―――……。」

そうだ、そうだった。と、デジレは思い出す。城で、あの歌を聴いていた生き残りはデジレだけ。

「そう、だな。綺麗だ」

「ね」

 歌が終わり、メドゥーサは深々とお辞儀をして建物の中に引っ込んだ。みなが口々に褒め称える。女神様と同じ名前なのはそういうことか。なんて美しい歌声なのでしょう。昨日までの不信感はどこへやら。それほどまでに、圧倒的なまでに、メドゥーサの歌声は人々の心を掴んだ。

「愛人、ね」

デジレは誰にも、ポケットのミルタにも聞こえないほど小さな声でつぶやき、また昼の仕事に戻った。



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亡国覚醒カタルシス もけもけちゃん @mokemokechang

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