二場



「主よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意された物を祝福し、私達の心と身体を支える糧としてください」

 お祈りをし、食事が始まる。子供たちはやっと食べれる、なんてこぼしながら口に詰め込む。

 デジレはメドゥーサを連れ、すこし離れた場所に腰かけた。パンも卵も一口大にカットし、冷めたのを確認してから口元に運ぶ。

「……」

「……」

「口をあけて」

「……」

 少ししてメドゥーサは口を開けた。小さな舌にパンを一切れ乗せてもらい、ゆっくりゆっくり咀嚼する。

 デジレの中で、あの日の少女とメドゥーサがどんどんかけ離れていく。こんな今にも消え入りそうな弱々しい存在ではなく、もっと力強く大きな存在感を持っていた。

「ふー」

 小さなため息を一つ。

「質問を、いくつかする」

「……あなたが望むのなら、なんでもお答えしましょう。しかし、」

 誰とも言葉を交わさなかったメドゥーサが、デジレにだけは口を開いた。だが、少女がしかしと言ってつづけた言葉に顔を曇らせる。

「わたくしは嘘をつきます」

 デジレは足を組み直し、頬杖をつく。

「わたくしは真実ではなく、あなたの望む答えをお話ししましょう」

「からかっているのか?」

「はい」

「お前は敵なのか?味方なのか?」

「どちらでも、あなたの望むままに」

「話にならないな」

 昨日の出で立ちが似合うほど、不気味な性格をしている。デジレはその場で少し考えて、もう一つだけ質問をする。

「帝国のライラック伯爵とはどういう関係だ?まさか娘だとは言わないよな?」

「そうですね、では、愛人ということにしておきましょう」

「愛人」

 男は若い女が好きとはよく言うが、何が何でも幼すぎるだろう。びっくりしすぎてデジレは席を外した。そのまま木剣を持って出ていき、素振りを始める。

 メドゥーサはなにがいけなかったのか分かっておらず、扉が閉まるまで首でデジレの動きを追った。そしてまたまっすぐ前を向いて座り続ける。

 会話は聞こえない位置にいたが、バティルドは常に二人を気にかけていた。デジレが出て行ってしまったので、メドゥーサの方へ寄って話しかける。

「デジレと、ケンカした?それとも話したくないことを質問された?」

 メドゥーサは返事もなければジェスチャーもない。周り全てを一切無視してただそこに座っている。

「うーん」

 思ったより重症だ。この子の心を開かなくては、とバティルドは自ら使命を負った。今日のところはひとまずそっとしておくことにし、食べかけの皿を下げた。

 一言も発さず、ただイスの上でじっと座り続けているその姿は本当に美しく、誰もが避けてしまう。が、ミルタだけは違った。

「あーなーたーねー」

メドゥーサの周りをビュンビュンと飛ぶ。風の妖精なだけあって目で追うことすらできない。

「デジレの特別はあたしなのよ!愛想悪いしまともに口きかないし自分で動きもしないっていうか介護か!!許さないんだから」

 ミルタはヒステリックにわめくが、メドゥーサは何も聞こえていないかのようにただ座っている。

「なんなの!なんなの!なんなの!」

 メドゥーサの髪を引っ張ってみるがそれにも動じない。ミルタはギリギリと歯を食いしばる。こうなったら、魔法を……。

「ミルタ」

「!」

 デジレに呼ばれ笑顔で振り返る。

「なぁに?」

「目を離すとすぐコレだ」

「きゃっ」

 デジレはミルタを捕まえてポケットに押し込む。ミルタが先ほど引っ張ったためはねてしまっているメドゥーサの髪をそっと撫で、再び外へ出た。


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