8話・月光の襲撃1
戦略的に攻めてくるデリートの大軍勢。
たった1人で万をも殺せる大和。
刀を振れば血が舞い散り、発砲音が響けば血が飛び散る。
床は真赤な血の海と化し、両断されたデリートの死体が数え切れぬほど転がっている。
大和が刀を一振りすれば、10体以上のデリートが死体へと変わる。
しかし、このデリートは考えなしに特攻してくるタイプとは違う。
最前線の味方を犠牲にして迫るデリートや、振り幅を狭めるために多方向から同時に地を這って迫るデリート。
デリートは戦法を変えながら大和に接近しようとするが、大和はその全てを否定するかのようにデリートを次々と死体へと変える。
デリートと交戦を始めてから1時間が経過。
数十分前は最後尾のデリートが見えず、闘いに終わりが見えなかったが、大和の奮闘により、そのときは徐々に近づいている。
このまま闘い続ければ、大和が勝つのは明確。
しかし、それはデリートが幼稚な攻め方を続けた場合の話であり、時間を掛ければ大和が負ける危険性もある。
「ぐっ!」
発砲音と同時に大和の体から血が舞い散る。
後方に立つ1体のデリートの手に握られたサブマシンガン。それは、光一の命令で逃げた者が置き忘れたものだった。
闘っていた者は各自の武器を持って逃げたが、弾薬を補給するために置かれた箱の中にあった銃は持ち去らなかったため、デリートはそれを使って大和に発砲しているのだ。
サブマシンガンは連射性能があるが、デリートは性能や使い方を熟知していないのか、単発で撃つことを止める。
しかし、現在大和が相手にしているデリートは学習能力がある。
1秒でも早くサブマシンガンを持つデリートを倒さなければ、その使い方を学び乱射されてしまう。
「グギャァァ!!」
銃弾を受けて膝を付いた大和に、デリートが襲いかかる。
「ここは……通さねぇ!!」
大和は足を激しく震わせながらも、立ちあがって刀を薙ぎ払う。
近づいてきていたデリートは左から順に死体となっていくが、片手で振ったためか、骨を切断することができず、2体のデリートを殺し損ねる。
すかさず両手で持ち、そのまま薙ぎ払おうとするが、腕に太い血管が浮かびあがった途端、大和は膝から崩れ落ちる。
すでに、大和は足に3発と胴に2発の銃弾を受けている。
服が黒いため穴が開いた部分は血で染まっていないように見えるが、大和の下唇から顎までは吐血により真赤に染まっている。さらには――。
「ヴァァァ!」
さきほど殺し損ねたデリートに噛み付かれ、大和は肩の肉を食い千切られる。
その瞬間――周りにいたデリートが一気に大和を襲う。
デリートの大群に覆い被されて、大和の姿が確認できなくなっただけでも絶望的な状況だが、それは――ゆっくりと姿を現した。
「また勝手に動いて……なにをやってるのかしら」
月の模様が刺しゅうされた和服
狐のお面で顔を隠しており、両サイドには防弾チョッキとメットを装備したデリートを連れている。
「生け捕りにしろって命令してたのに……私もまだまだね」
顔では確認できないが、声はあきらかに女の声。
その女が群がっているデリートに手を翳すと、大和を襲っていたデリートは大人しくなり、女の周辺へ集まり出す。
デリートを操っているようにも見える女。
この女こそ、光一が話していた月光のメンバーである明日香であろう。
「まさか……この人が1人で?」
明日香はぐったりと横たわる大和の頬に手を当てる。
血で真赤に染まった自分の手を見つめ、明日香は何を思ったのか、その手をデリートに向ける。
「あんた等みたいな駒の補充はいくらでもできるのよ」
明日香に手を向けられたデリート達は、突如として共食いを始め、最後に残った1体は明日香の手に寄って死体と化した。
「この人はまだ生きてる。下からも音が聞こえるわね……ここから行く必要があるのかしら?」
管理室から暗証番号を入力しなければ動作しないエレベーター。
明日香はそのことを知らないのか、エレベーターの前をうろうろとする。
「どうやったら開くのかしら?」
「あ~。これは暗証番号を入力しないと、開かないタイプね」
「あら、風香。遅かったじゃない」
「最近風汰の寝つきが悪いせいよ」
管理室へと入った風香は、暗証番号を入力できるパソコンの前に立ち、キーボードを使って暗証番号を入力していく。0~9を組み合わせた4桁暗証番号を入力する必要があるが、そのパターンは10,000通りある。
0000から順に入力すれば、いつかは正解できるだろう……が。
「ラッキー! 一回で当てちゃった!」
「風香。あなた分かってたの?」
「女の勘よ!」
居住区へと続くエレベーターが動き始める。
明日香と風香は扉の前に立ち、エレベーターの到着を待ち続けていた。
§ § §
《居住区エリア》
「大和兄ちゃん。どこ~?」
居住区エリアの通路には、目覚めた小雪が泣きながら大和を探して歩いていた。
見知らぬ場所で寝かされていて、起きたときには大和がいない。
小雪は暗く静まりかえった通路を、大和の名を叫びながら、歩き続けていた。
通路をぬけて広場に出た小雪。
「ひっ!」
小雪の先にはエレベータの中に倒れている光一の姿があった。
気を失っている光一に、小雪はゆっくりと近づく。
「あ、あの……だいじょうぶですか?」
小雪が光一の体を揺さぶり始めた途端――。
「な、なになに!?」
エレベーターの扉は閉まり、上昇を開始した。
デッドワールド 天羽日葉(あまのひよう) @amanohiyou02
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