7話・月光の襲撃
止まるところを知らない発砲音。
銃を持った者達は、覗き穴にも見える瓦礫の隙間から、外に向けて発砲し続けている。
その裏では、外部の映像を確認しながら声を上げる者の指示に従い、銃弾を運ぶ者達が汗を流しながら駆け回っていた。
「なにがあった?」
「デリート……いや。この動きは月光の襲撃だ」
大和は外部が映されている映像の1つに顔を向ける。
その映像には、デリートの大群が映し出されていた。
「なるほど。これは厄介だな」
映像を見ていた大和が呟く。
その映像には、銃弾を受けて死んだであろうデリートの死体を盾に使い、この駅に徐々に近づくデリートが映し出されていた。
大和がこれまで倒した、血肉を求めて走り回るだけのデリートではなく、知性があると思わされる戦略的な動き。
「大和!」
居住区での仕事を終えたのか、映像を見ていた大和に光一が駆け寄り、モニターがある机にのめり込みながら映像を確認する。
「くそ!! よりにもよって、1番めんどうな奴が来たか!」
「めんどうなやつ?」
大和は首を傾げる。
月光のことを詳しく知らない大和からすれば、光一が言った『めんどうな奴』が誰なのか知ろうとするのは、当然のことだろう。
しかし――。
「3つのリュックに食料を纏めろ。それ以外は全て居住区に移せ!」
「おい、光一」
「居住区の人に、俺達はここを一旦離れるが、戻って来るまで絶対に外に出るなと伝えてこい!」
「……光一」
「発砲は必要最低限にしろ! 俺が時間を稼ぐから、お前等は――」
「光一!!」
肩を掴まれ、大和の顔を見ながら黙る光一。
光一の顔は、数秒前まで荒声を上げていたとは思えぬほど青ざめ、まだ大して動いていないのに汗だくになっていた。
「落ち付いたか?」
「……あ、ああ。すまなかった」
「それで、めんどうな奴って誰なんだ?」
「明日香だ! デリートを意のままに操ることが出来る」
現在、この国にどれほどの人間が生存しているかは分からないが、デリートを意のままに操ることが出来る人物の存在は絶望でもあり希望でもある。
その者がデリートを操り、殺し合いをさせて数を減らしてくれるならば、生存した者にとっては英雄のような存在だろう。
しかし、その力を使って生存者が集う場所を襲ってきたところを見ると、その者は生存者の英雄になる気がないのはあきらかだ。
「1年前にも真紀とツヅミが居た拠点で――」
「光一様! 南側の関係者出入口から侵入されました!」
光一は大和との会話を中断して、モニターの1つを確認する。
そこには瓦礫で封鎖していたはずの出入口から、大量のデリートが侵入してきている様子だけでなく、そこを守衛していたであろう者達が手足を千切られ、引き千切られた内臓を喰うデリートの姿が映し出されていた。
「くそ! 俺が時間を稼ぐ! お前等は地下通路で逃げろ!!」
光一の発言に、その場に居た者は1人を除いて、先に地下通路があるであろう通路に走り去る。
「なにしてんだ! お前も早く――」
光一が何かを言いかけるが、鈍い音がしたとたん、光一は突如体勢を崩し、大和の腕にしがみ付く。
「お前……なに……しやがる」
それだけを言い残して、地面に倒れ込む光一。
大和は動かなくなった光一をしばらく見ていたが、気を失っている光一を持ち上げ、管理室から居住区に続くエレベータの扉を開き、光一をエレベーターの中に放り込む。
「今度は俺が助ける番だ」
ボタンを押して、エレベーターが起動したことを確認すると、広場へと戻り刀を抜くと、そっと目を閉じた。
南側からは侵入して来たデリートの叫び声が徐々に大きくなり、瓦礫のバリケードが保っている北側の入口は、今にも壊れそうな音をたてている。
北側の入口が破壊されれば、大和は挟み撃ちにあう。
そんな状況の中で、大和は目を閉じたまま動こうとしない。
南側から侵入して来たデリートは、大和が立っている広場に姿を現し、それと同時に瓦礫のバリケードを破壊して、北側からもデリートが姿を現す。
完全に挟み撃ちになってしまったが、大和は焦るどころか、ゆっくりと刀を構えて目を開ける。
「いま……楽にしてやる」
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