6話・東の拠点
光一に案内され駅の内部を歩く大和。
そこでは、銃を持った生存者が地図を広げて話し合い者。外部の様子を映し出している数々のモニターに目を光らせる者。かつて賑わったであろう店から集めた食料を配給する者達が、深夜にも関わらず忙しそうに行動している。
「ここが居住区だ」
光一が居住区と言ったところは、住めるように改造された駅の地下駐車場。
その地下駐車場は、訪れた者が自由に停めれるシステムではなく、関係者が開いているスペースを指定し、機械が車を収納するシステムである。
入口は開閉式の強固な鉄でできており、近くにある部屋から暗証番号を入力しなければ扉が開くこともない。車を収納するスペースも100台を超えていることから、人が住むには十分な広さであろう。
「光一様。貴方のおかげで、朝に無事出産することが出来ました」
「それは良かった。抱っこしても良いかな?」
光一は女性から赤子を受け取り、体を上下に動かしながら抱っこする。しかし、赤子は異変を感じたのか、赤子は光一の腕の中で手足を動かしながら、突如泣きだす。
「あ~ごめんよ。お母さんの方が良いよな」
光一は泣きだした赤子を母親に受け渡す。
それでも泣き続ける赤子の頭を優しく撫でながら『産まれてきてくれて、ありがとう』と呟くと、赤子は泣くことを止め、目を見開いて光一から視線を逸らそうとはしない。
「お前って子供好きだったのか」
「子供はなによりの宝だ。そういう大和はロリコンだったんだな」
居住区にコインが落ちたかのような高音が響く。
大和と光一は互いの刀を押し負かそうと、歯を食いしばりながら腕を激しく震わせ。2人を見ている人は、驚きと恐怖が混じった表情をしている。
§ § §
光一の部屋まで来た大和は、寝ている小雪をベッドに下ろすと、部屋の中央に置かれた机の傍に座る光一の真向かいに座り、用意された珈琲を飲みながら話し始めた。
「そうか。あいつ等も生きてるのか」
「違う場所に拠点を置いてるけどな。そのうち会えるだろうよ」
大和と光一は、かつて入院している時に病室で一緒に遊んだ旧友の話題だった。大和がALSの検査をするために入院した際に、短期間ではあるが、同じ病室で過ごした1人が光一であり、他にも真紀とツヅミという子も居て、検査以外の時間は一緒に遊んでいた仲だった。
「そう言えば、ここに来る間に奇妙な奴に会ったんだが、何か知ってるか?」
「奇妙な奴?」
「ああ、おそらく双子の奇形児だろうが、なんか《月光》とか言ってた」
大和が山奥で出会った風汰と風香の話題を出すと、光一は珈琲を飲もうとしていた手を止め、軽くため息を吐くと、珈琲の入ったすり鉢を机の上に置いた。
「大和。その話をする前に一つ聞くが……お前はどう答えたんだ?」
「安心しろ。仲間に誘われたが断った」
大和が答えた後も、光一はしばらく大和の顔を睨みながら刀に手を掛けていたが、刀から手を放すと、毘沙門天のような表情から、赤子を抱いていたときの優しい表情へと変化する。
「疑って、すまなかった」
「謝る必要はない。それより、月光のことを教えてくれないか?」
「月光のことに関しては、俺も知っていることは少ないぞ?」
光一は席を立つと、すり鉢に珈琲の粉を入れ、ポットからお湯を入れる。
「あいつ等は人間を化物に変えて、この国だけじゃなく、世界を征服しようとしてる奴等だ。無関係の人に危害を加えようと考えてる奴は俺の敵だ。少しでもいいから聞かせてくれ」
大和の言葉に、光一は珈琲を混ぜていたスプーンを止め、顔を伏せたまま微動だにしない。部屋の中には、小雪の可愛らしい寝息だけが聞こえ、なんとも言えない張り詰めた空気が充満し、この時間が、
「月光は……」
いつまで続くのか分からないと思う前に、光一が口を開く。
「メンバーの人数も謎。個々の力も未知数。ただ、はっきりと言えるのは、デリートを従えて、この世界を支配しようとしてるってことだけだ」
「デリートってなんだ?」
「空気感染した自我を失った化物のことを、デリートと呼称して呼んでる」
「そのデリートと月光の奴等の違いは?」
「月光のメンバーだと言ってる奴に会ったなら、分かるだろ」
大和は顔を寝ている小雪の方に向けると、右手の親指を唇に押し当て、何かを考える素振りを見せる。
「…………自我か?」
「自我を保ってるだけじゃない。1人の月光メンバーを相手にするより、1万体のデリートを相手にしている方が楽だと思えるくらい、あいつの力は脅威かつ未知数だ」
光一の発言に大和は首を傾げる。
大和だけでなく、この話を始めて聞く者は、だれでも不思議に思うだろう。
「お前闘ったのか?」
具体的な数と、個人を指示すような発言。
大和が質問すると、光一は大和の顔から、机に立てかけてある2本の刀へと顔を向け、しばらく刀を見つめ続けた後に目を閉じる。
「考えてみれば、この拠点に真紀とツヅミが居ないことも変な話だ」
「…………」
「何かあったんだろ?」
光一は目を閉じてはいるが、歯軋りをたてて、顔が徐々に険しくなる。
「あれは……1年くらい前の――」
光一が重要な話であろうことを喋りかけると、突如部屋の外から聞こえた銃声に阻まれる。それを聞いた2人は、すかさず刀を持ち部屋の外へと出ると、光一は居住区の人に部屋に戻るよう指示を出し、大和は銃声が聞こえてくる地上へと向かった。
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