No,29 Distant recollection of the day.

「罰ゲームで、台本渡されて僕が常時魔術使って操れなんて、そんな高度で悪質なものがあるか!」

 ロドルが食ってかかるがアルバートはさらりと避ける。

「やり遂げたんだからいいだろー」

「魔術ずっと使っていると疲れるし、左眼痛いんだよ!」

「知ってる!」

「知ってるんならやめろ!」

 いやいや、それが狙いなんだから罰ゲームなんだろうが。

 馬鹿なんだろうか。

「……ジャック」

 昔からその名前を呼んでいた。

「お前、その名前呼ぶなって」

 こいつの付き合いはもう何百年。

「俺にとってはお前の名前はこれしかないよ。俺にとってお前は公爵貴族の跡取り様でも、この魔王城の側近でもない。――同じ孤児仲間」

「頭を撫でるな」

 アルバートはグッシャグシャに雑に頭を掻き乱す。

「それはどうかなー。今でも不思議だなぁ。年同じだったのに、俺の方が年だけ食っちゃってさ。お前、俺より身長高くなかったっけ?」

「うるさい。頭を撫でるな!」

「髪ふわふわ〜。いいじゃん、酒奢るからさ〜。呑もうぜ、ほら呑も?」

 グッシャグシャにされるのは嫌だろうにあまり逃げようとしないのは何故だろうか。アルバートにもロドルの真意は分からない。

「僕は酒飲めない」

「飲めたじゃんかぁ〜」

「それはお前が無理やり飲ませるからだ!」

「パブ行こうぜ、ほら早く!」

「だから僕は酒飲めないって」

 それでもアルバートは続ける。

「行ける! 行ける! よし、今日は潰して吐かせてやるから覚悟しとけ!」

「それが理由か、アルバート!」

 この物語は本編のちょっとしたお遊びだ。それは作者の遊びでもあるだろうし、アルバートがロドルを弄ぶ為の遊びでもあるだろう。

 ただ、たっぷりと伏線を引いた。

 かのルイス・キャロルは知り合いの子供たちに物語を聞かせてこの『不思議の国のアリス』を書き上げたが、私もそうなのかもしれない。

 大人に成りきれなかった登場人物たちが好き勝手に遊んでいる。それは無邪気に遊ぶ子供みたいだ。

 この物語はそんな物語である。








 END

 平成二八年四月三日書きおろし


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参考文献


「不思議の国のアリス」キャロル,ルイス.石川澄子訳.東京図書,1980,185p.


「不思議の国のアリス」キャロル,ルイス.山形浩生訳.

http://www.bauddha.net/alice_wonder/index.html


「Alice's Adventures in Wonderland & Through the Looking-Glass」Carroll,Lewis.With an Lotroduction by Morton N.Cohen.1860,234p.

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